要綱とは?法的拘束力と介護・障害福祉事業への関わりを徹底解説

はじめに

 

「〇〇補助金交付要綱」や「〇〇事業実施要綱」など、行政手続きにおいて「要綱」という言葉を目にしたことはあるでしょうか。

「第◯条 ~~~~。」のように条項で書かれていることが多いため、何か法律的な類のものに見えるかもしれません。

しかし実は、要綱は法律的な拘束力を持つものではありません。

ではいったい要綱はどんな性質のもので、介護・障害福祉事業者にとってどんな意味があるのでしょうか。

本記事では、要綱と他の法律等との違いや介護・障害福祉事業者との関係性について解説します。

 

要綱とは?

 

自治体による行政活動の基礎となるルールは、法律・条例・規則です。

一般的には、この法律・条例・規則以外で、自治体内部の細かい事務処理ルール等を定めたものが要綱だと言われています。

 

1 要綱に関する取扱い

(1) 要綱の意義

「要綱」は、区の事務の処理方法に関し、条例、規則又は訓令の形式で定めるべき事項以外の事項について、その処理権限をもつ者が定める行政内部の指針(処理基準)である。

区長部局で定めるものは、区長(その権限の委任を受けた者を含む。)及び会計管理者の権限に属する事務に限られる。

注1 要綱は、行政の内部規範にすぎない。要綱によって直接住民の権利を規制し、義務を課することはできない。たとえ、要綱の中で、住民のなすべき行為(申請、届出等)や責務を定めていたとしても、それは、行政内部に対し、事務の処理方法を示したものであり、直接住民に向けられたものではない。

(2)~(4)省略

引用元:要綱及び要領の取扱いについて 平成3年4月10日 中総総第20号

 

つまり、あくまでも法律ではなく自治体内部のルールにすぎないため

要綱によって直接住民の権利を規制したり、住民へ義務を負わせることはできない=法的な拘束力がないということです。

 

法律や条例等との違い

 

法律や条例・規則と要綱の大きな違いは、先述のとおり法的な拘束力があるかどうかです。

しかしそれだけでなく、制定方法(作り方)にも違いがあります。

それぞれの制定方法をまとめました。

 

法律:国会が議決を経て制定

条例:地方自治体の議会が議決を経て制定

規則:地方自治体の長(知事や市長等)が制定

要綱:自治体により異なる。それぞれの要綱を管轄する課の長であることが多い。

 

このように、要綱は必ずしも国民(市民)から選ばれた議員や長の議決等の手順を踏んで制定されるわけではありません。

 

要綱の種類

 

要綱について明確な定義はありませんが、その性質的に大きく次の5種類が考えられます。

 

① 規制

 法令等がカバーしきれていない領域で、規制が必要な事項に対する審査や指導の基準を定めたもの

② 補助

 給付、助成、貸付などの基準を定めたもの

③ 組織

 審議会などの補助機関の運営の基準や、内部組織(委員会等)の設置や公的施設の管理運営基準を定めたもの

④ 事業根拠

 要綱が独自の事業根拠となっているもの

⑤ 判断続一

 執行マニュアルを中心とした、行政の裁量部分を詳細にしたもの

 

参考:行政内部手続の透明化に向けた自治体要綱のあり方(平成13年3月 川崎市資料)

 

この中で、③・⑤に関しては自治体の内部ルールそのものであることが多いです。

会社で言う社内規則や社内での業務処理マニュアル等をイメージしていただければ良いと思います。

 

一方、私たち住民に関係があるのは①・②・④であることが多いです。

 

①は、建築規制要綱や産業廃棄物の処分の規制に関するものなどがあり、

法律等を補完する細かいルールのようなイメージです。

 

②は、自治体独自の補助金交付要綱や、福祉サービスに関するもの、学術·文化等の奨励、ボランティア活動への助成に関するものなどがあります。

住民に対してお金やサービスを給付する事業において、誰がもらえるのか、何をすればもらえるかといった細かいルールですね。

 

④は、市民祭りの開催に関する要綱や、自治体の公共施設利用に関するものなどがあり、法令に根拠を持たないものが多いです。

 

介護・障害福祉事業者に関係がある要綱は?

 

介護・障害福祉の領域では、規制や補助の要綱が関係する可能性が考えられます。

 

規制で言えば、実地指導(運営指導)や監査に関する要綱であったり、

補助で言えば、高齢者や障害者を対象とした補助金や福祉サービスに関する要綱が関係してくる場合があるでしょう。

 

例えば埼玉県さいたま市などで実施されている生活サポート事業というのものがあります。

これは障害者の地域生活の支援を目的として、一時預かりや外出援助等を行う事業者へ経費を補助するものですが、この事業の実施要綱に基づいて事業者は市への登録が必要です。

 

要綱を根拠とした行政処分はある?

結論から言うと、要綱を根拠とした行政処分はありません。

なぜなら日本では「法律による行政の原理」が採用されているからです。

「法律による行政の原理」とは、行政機関が行う活動や権限の行使が、すべて法律に基づいて行われなければならない、という原則のことです。

 

ここで行政手続法を見てみましょう。

処分と不利益処分、いわゆる行政処分は次のように定義されています。

 

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 省略

二 処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。

三 省略

四 不利益処分 行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。

 イ 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分

 ロ 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分

 ハ 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分

 ニ 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの

五 省略

六 行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。

七、八 省略

 

法律というルールがなければ、行政が制限なく住民の権利を侵害してしまうおそれがあります。

そのため、行政処分は法令に基づかなければならず、法的な拘束力を持たない要綱によって行政処分を行うことはできないと理解できます。

要綱を根拠として出来るのは行政指導であり、法的には拘束力のない協力要請、つまり「〇〇しなさい」ではなく「〇〇してほしい」というお願いのみです。

 

処分性が問われた事例

要綱を根拠とした行政処分はできないと言いましたが、

実質的に行政処分と同様の効果をもたらしていたことが問題になった事例があります。

 

かつて東京都武蔵野市では、市がマンションを建築しようとする事業主に対して、

「武蔵野市宅地開発等に関する指導要綱」に基づいて、設計前に日照影響について市と協議することや、周辺住民の同意を得ること、教育施設負担金の寄付などを、あくまでも行政指導として求めていました。

 

また要綱では、これらに従わない事業主には水道の給水を拒否するなどの制裁措置が内容に含まれており、事実上、これらに従えない事業主はマンションの建築等を諦めざるを得ない状態だったのです。

実際に、この要綱に従わない事業主が建築したマンションに対して水道の給水等を拒否していた等の事実もあったことから、行政指導の限度を超えた、違法な公権力の行使※であるという判決に至っています。

(最一平成5年2月18日民集第47巻2号574頁)

※公権力の行使とは

 簡単に言うと、国や自治体等が、国民が持つ権利や義務を変動させたり、身体や財産に対して制限を加えるなど

 国民に対して様々な影響を与えることです。

 公権力の行使の代表例が行政処分です。

 

ちなみに、平成12年に施行された地方分権一括法においては、住民に対して「義務を課し、権利を制限する事項を条例化しなければならない」と規定されています。

以上のような背景もあり、以前は要綱で定められていた実質的に行政処分となるような規定内容は、現在では条例化されているようです。

 

さいごに

いかがでしたでしょうか。

要綱は様々なバリエーションがあり、我々住民には関係がないものも多くあります。

しかし、介護・障害福祉事業者においては出会う頻度が高いものではないかと思い本記事を執筆いたしました。

本記事が用語理解の一助となっていれば幸いです。

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