喀痰吸引等は、介護や障害福祉の現場で求められることが多い重要な医行為ですが、正しい手続きと研修の受講などが必要です。
今回は、事業者として押さえておきたい喀痰吸引等の概要と適切に実施するための手続きを解説します。
喀痰吸引等とは?
喀痰吸引等とは、具体的に以下のような行為を指しています。
◯たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)
◯経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)
なぜ手続きが必要?
喀痰吸引等は本来「医行為」のため、医師法上では医師や看護師しか行うことができないものでした。
ですが、介護・障害福祉の現場で喀痰吸引等の必要性が高まったことから法律が改正され、
訪問介護でヘルパーが訪問する利用者宅や、特別養護老人ホームなどの施設等で一定の条件下であれば行えるようになりました。
この一定の条件をクリアするための手続きが必要ということです。
喀痰吸引等ができるまでのステップは大きく3つ
これから喀痰吸引等を行いたい事業者は、大きく次の3つのステップが必要です。
① 介護職員が喀痰吸引等研修を受ける
② 研修を受けた介護職員が、都道府県から「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受ける
③ 事業者が「登録特定行為事業者」として登録を行う
①・②は、喀痰吸引等を行う介護職員ごとに手続きをする必要があるのでご注意下さい。
では、それぞれ細かく見ていきましょう。
① 介護職員が喀痰吸引等研修を受ける
喀痰吸引等研修は次の3つの課程があり、実務では1号研修、2号研修、3号研修と呼ばれたりします。
とりあえずどれかを受ければ良いわけではなく、目的や状況に合った研修を受けなければなりません。
注意:研修の時間数や実地研修の回数は研修機関によって多少異なるため、詳細は各研修機関へお問い合わせください。
◯不特定多数の者 対象研修(第1号研修)
対象者:主に、特別養護老人ホーム等の施設で、不特定かつ多数の利用者に対して喀痰吸引等を行う予定の介護職員等
内容 :基本研修(講義50時間+シミュレーター演習)と実地研修
できるようになる行為:たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)
経管栄養(胃ろう又は腸ろう、経鼻経管栄養)
◯不特定多数の者 対象研修(第2号研修)
対象者:第1号研修と同じ
内容 :第1号研修と同じ
できるようになる行為:たんの吸引(口腔内、鼻腔内気管カニューレ内部)、経管栄養(胃ろうまたは腸ろう、経鼻経管栄養)のうちいずれか任意の行為
※1号と2号の違いは?
1号:すべての行為に関する実地研修を受け、すべての行為が利用者に行えるようになる
2号:選択した行為に関する実地研修を受け、研修を受けた行為のみ利用者に行えるようになる
◯特定の者 対象研修(第3号研修)
対象者:主に、在宅等で特定の個人に対して、喀痰吸引等を行う予定の介護職員等
内容 :基本研修(講義9時間+演習1時間)と実地研修
できるようになる行為:たんの吸引(口腔内、鼻腔内気管カニューレ内部)、経管栄養(胃ろうまたは腸ろう、経鼻経管栄養)のうち、研修を受けた行為のみ
※特定の利用者に対して必要な行為の実地研修を受講してください
以上です。
なお、以下の方はその養成課程で「医療的ケアの講義と演習」を修了していることから、基礎研修が免除されます。
※医療的ケアの講義と演習を修了していない場合は免除されませんので、
必ず事前に研修機関へご確認下さい
・介護福祉士の国家資格を持っている方(平成28年1月の国家試験合格者以降)
・実務者研修を受けている方
・福祉系高校を卒業した方など
② 研修を受けた介護職員が、都道府県から「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受ける
介護職員が研修を受けて修了証が発行されたら、都道府県に従事者認定の申請をしましょう。
認定の申請先は基本的に住民票上の住所地の都道府県です。
なお、受けた研修によって認定の申請先担当が違う場合がありますので
事前に都道府県へご確認下さい。
認定申請に必要な主な書類は次のとおりです。
・申請書(都道府県ごとの様式を使用)
・住民票
・欠格要件に該当しないことの誓約書※
・喀痰吸引等研修の修了証
※欠格要件とは、他の法律で罰則を受けていたり、介護福祉士の登録を取り消しされてから2年以上経っていないなど、適正でない状態の場合は認定をしないとして定められている要件です。
③ 事業者が「登録特定行為事業者」として登録を行う
介護職員が認定を受けたら、事業者が都道府県へ登録申請をしましょう。
登録は法人単位ではなく事業所単位ですので、例えば東京と大阪の事業所を登録したい場合
それぞれの事業所から管轄の都道府県へ申請をする必要があります。
登録にあたっては以下のとおり登録基準がありますのでご注意下さい。
◯ 医師や看護師、その他の医療関係者との連携が確保されていること
・医師の文書による指示(指示書)
・医療関係者との連携確保及び役割分担
・喀痰吸引等計画書の作成
・喀痰吸引等実施状況報告書の作成
・急変時等の対応
・業務方法書の作成
◯喀痰吸引等を安全かつ適正に実施するための必要な措置が講じられていること
・安全委員会の設置、研修体制の整備その他の安全体制の確保
・備品等の確保
・衛生的な管理及び感染症予防措置
・対象者又はその家族等への説明と同意
・秘密の保持
特に注意したいこと
冒頭でも触れたとおり、喀痰吸引等は医行為です。
本来は医師や看護師しかできない行為を特別に介護職員が行っても良いという制度なので、役所が行う実地指導の際にも重点的に確認される傾向があります。
特に抜け、漏れ等が起こりがちなのは次の対応です。
・医師の指示書が無い、指示書に喀痰吸引等の内容が含まれていない
・利用者や家族への説明、同意を受けた記録が無い
・認定特定行為業務従事者認定証が交付される前に喀痰吸引等を行ってしまった
など
これらを実地指導で指摘されあ場合、最悪報酬返還にもなり得ます。
また利用者の命にも関わる重大な事故が起こる可能性もありますので、日頃から適切な対応を心がけましょう。