【社労士監修】時間単位の年次有給休暇の正しい導入方法 記載例あり

原則事業者は労働者に1年あたり年5日以上の有給休暇を取得させる必要があります。

しかし、事業の関係で労働者が丸一日休むことは難しい場合もあります。

そのような場合に時間単位で有給を取得して欲しいと考えることもありますよね。実際に弊社の顧問先からも時間単位の有給につき問い合わせが多数いただきます。

しかし、年次有給休暇は原則1日単位で取得させなければなりません。では時間単位の年休は取れないのかというと、そうではありません。時間単位の年次有給休暇は例外的に認められているものです。

よって年次有給休暇を時間単位で導入する場合には別途手続が必要で、運用上のルールも通常の年次有給休暇と異なります。これらを遵守していないと、労基署の定期臨検で是正報告の対象となるでしょう。

そこでこの記事では時間単位の年次有給休暇を導入する場合にの流れとルールにつきまとめました。

時間単位の年次有給休暇 導入手続

年次有給休暇を時間単位で取得するために必要な手続は次の2つです。

①労使協定の締結

②就業規則への記載

それぞれ確認しましょう

①労使協定の締結

労使協定とは会社と過半数労働者代表が結ぶ協定で労働条件などを記した書面です。これを結ぶことにより、その会社で働く従業員は労使協定に記載された条件を承諾したとみなされます。

労使協定で何より大事なことは、労働基準法の適用が免れることです。労働基準法とは会社と従業員が結ぶ雇用契約の最低基準が定められている法律で、この基準以下の契約は全て違法という考えになります。

それを労使協定を結べば適用が免れる、つまり特例的に認められるということです。

なぜ時間単位の年次有給休暇が例外なのか。

それは年次有給休暇はまとまった日数の休暇を取得するという趣旨から1日単位で取得するという考えを原則としているからです。その例外で時間単位の年次有給休暇があるからです。

つまり労使協定を結ばない限り、適法に時間単位の年次有給休暇は導入できないということです。

②就業規則に記載する

時間単位の年次有給休暇制度を導入したら就業規則に記載しましょう。

前述した通り時間単位の年次有給休暇は例外的な取扱いです。従業員からすれば、うちの会社には時間単位の年次有給休暇はあるのだろうか?という疑問に常に確認出来る体制にすることが必要です。

就業規則への記載がそれにあたります。

また後述しますが、時間単位の年次有給休暇制度を導入したとしても、運用ルールは会社により異なります。適用される従業員にとって年次有給休暇は重要な労働条件ですので、就業規則をいつでも見られる状態にして、明確に定めた自社の運用ルールを周知するためにも就業規則に記載しましょう。

必要手続については以上です。

時間単位の年次有給休暇の運用ルール

次に運用ルールについてです。
大きく5点ご確認下さい。

◆時間単位の年次有給休暇の5つの運用ルール◆

①付与日数の上限

②賃金額の定め方

③時季変更権の兼合い

④計画年休との関係

⑤繰越ルール

 

それぞれ確認しましょう。

①付与日数の上限

正社員が半年働けば、年次有給休暇は10日付与されます。

その10日全てを時間単位で請求出来るかといえば、そうではありません。上限時間数が定められています。

それが年に5日です。

分かりやすく1日の労働時間が8時間だとします。その場合に時間単位で取得できる有給休暇の上限は8✖️5の40時間までということです。

言い換えれば会社は上限時間数を管理しないといけません。

②賃金額の定め方

年次有給休暇は会社を休んでも賃金が減額されませんよね。

それは年次有給休暇に対して賃金が支払われているからです。

1日単位の年次有給休暇であれば日給を計算すれば計算しますが、時間単位であれば時給を出さないといけません。

通常正社員は月給制の方が多いので、どうやって時給を計算するのかという定めが必要になります。

定め方としては、まず次のいずれかの3つを選択します。

⑴平均賃金
⑵所定労働時間働いた場合に支払われる通常の賃金
⑶標準報酬日額

これらは共通して日給です。

その選択した日給をその日の所定労働時間数で割った額になります。

正社員であれば8時間のことが多いので、選択した⑴⑵⑶を8で割って時給にするということです。

注意点としては⑴⑵⑶のいずれかを会社が選択したかを就業規則に明記することです。ケースバイケースや従業員によって変更することは出来ないとお考え下さい。

③時季変更権の兼合い

年次有給休暇制度には時季変更権というものがあります。

本来、年次有給休暇は理由問わず従業員が好きなタイミングで請求出来るものです。しかし、どうしても繁忙期や人が少ない時期といった事業が正常に運営出来ない場合に会社側は有給休暇の取得日を変更する権限が与えられています。

これを時季変更権と言います。

で、時間単位の有給休暇にも時期変更権は行使できるのかということですが、これは行使可能です。

行使可能なんですが注意点。

1日単位の年次有給休暇を時間単位に変更することや、時間単位の有給休暇を1日単位に変更することは認められていません。

1日有給取りたいと請求があって、忙しい時期だから4時間に変更してーってことは時季変更権に該当しないので認められないというこどてす。

④計画年休との関係

本記事の冒頭で会社は従業員に対して、年に5日は有給休暇を取得させる義務があると書きました。

半ば無理矢理にでも年次有給休暇を消化させるというイメージです。

その際に計画年休という規定を使い、会社側がこの時期に有給を取得するように時期を指定する制度です。もちろん、これは労働基準法の年次有給休暇の原則に違反しますので、労使協定を別途締結する必要があります。

では仮に計画年休を合法的に行えるとします。

その場合、時間単位で計画年休を与えることはできるのでしょうか。

結論から言えば時間単位で計画年休を与えることは出来ません。

計画年休がそもそも例外であるのに、さらに時間単位の年次有給休暇という例外というのは認められないということでしょう。

⑤繰越ルール

年次有給休暇には時効があります。

取得日から2年です。

年次有給休暇の取得日の最大日数は一年で20日なので、最大40日を年次有給休暇の請求権利を持つことになりますね。

この時効との絡みを年次有給休暇の残日数を翌年繰り越すといった表現がされます。

例えば一年間で20日中、7日使えば13日が残日数になり、翌年繰り越されて33日になるということです。

これが時間単位の年次有給休暇が絡むとどうなるか。

時間単位の年次有給休暇は最大5日分までというルールがあります。

そこで時間単位の残日数と翌年の時間単位の有給休暇を合算して場合にどうなるのかということです。

結論を言えば繰越後も5日が上限になります。

どの一年で見ても年に5日分までが時間単位で請求出来る限度ということです。

もし繰越の関係で1日未満の労働時間が残った場合には、翌年に繰越すか繰上げて1日にするといった対応が考えられます。

時間単位の年次有給休暇の運用ルールについては以上です。

【記載例!】時間単位の年次有給休暇の労使協定、就業規則に何をかく?

手続と運用ルールを確認した上で、再度手続につき確認しましょう。

労使協定と就業規則には何を記載すればいいのか。また注意点です。

労使協定について

記載内容は次の通りです。

①時間単位年休の対象労働者の範囲
②時間単位年休の上限日数
③時間単位年休の1日分の時間
④一時間以外の時間を単位とする場合はその時間数、取得単位

これが労使協定の記載例です。

年次有給休暇の時間単位での付与に関する労使協定

〇〇株式会社と〇〇の従業員代表は、標記に関して次のとおり協定する。
(対象者)
第1条 すべての労働者を対象とする。

 

(日数の上限)
第2条 年次有給休暇を時間単位で取得することができる日数は5日を上限とする。

 

(1日分の年次有給休暇に相当する時間単位年休)
第3条 年次有給休暇を時間単位で取得する場合は、1日の年次有給休暇に相当する時間数を8時間とする。短時間労働者の場合には別途就業規則で定めた時間とする。

 

(取得単位)
第4条 年次有給休暇を時間単位で取得する場合は、1時間単位で取得するものとする。

 

この労使協定は労基署に届出す必要はありません。

就業規則について

就業規則の記載例です

第 ◯◯ 条 労使協定に基づき、前条の年次有給休暇の日数のうち、1年について5日の範囲内で、次により時間単位の年次有給休暇(以下「時間単位年休」という。)を付与する。

この5日には、前年の時間単位年休に係る繰越し分を含める。

(1) 時間単位年休付与の対象者は、すべての従業員とする。

(2) 時間単位年休を取得する場合の、1日の年次有給休暇に相当する時間数は次のとおりとする。

① 所定労働時間が5時間を超え6時間以下の者 6時間
② 所定労働時間が6時間を超え7時間以下の者 7時間
③ 所定労働時間が7時間を超え8時間以下の者 8時間

(3) 時間単位年休は、1時間単位で付与する。

(4) 本条の時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。

(5) 上記以外の事項については、前条の年次有給休暇と同様とする。

従業員が請求する際に迷わないように明確に記載しましょう。

半日単位は?

半日単位の年次有給休暇は特に手続することなく請求が認められています。会社は同意すれば済むということで、上限日数の定めもありません。

注意点としては2つ

①時間単位の年次有給休暇と差別化する

例えば4時間の時間単位の請求があった場合に、半日単位なのか時間単位なのかが分かりません。

半日単位は0.5労働日、時間単位は4時間と表記するなど分別しましょう。

②時季変更権

時間単位と同じです。

半日単位の請求を一日に、その逆も認められていません。

③半日の定義

半日を午前と午後で分けるのか、それとも4時間で区切るのか明確にしましょう。

オフィスワークだと時間で見れば午前の方が短いところもあるのでご注意ください。

また4時間にした場合でも中抜けの4時間は制度の趣旨である休養やリフレッシュと馴染まないという考えもあるので避けるのがベターです。

そのほかの注意点

•5日の消化義務に時間単位の有給休暇は含むことはできない。丸々1日を5日間で年次有給休暇を取得して休ませることが必要

•対象者を目的別に時間単位の年次有給休暇の適用を決めることは出来ない。全てを対象とするや業務の種類によって適用の判断をすることは可能。

•上記例として小学生未満の子供を育てる労働者のみ時間単位の有給休暇の対象労働者とするは認められない。子の看護休暇や介護休暇を時間単位で取得できるようにすることは別途労使協定を締結すれば可能。しかし有給か無休は会社による。

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