訪問看護事業者はオンコールといって深夜も看護師が自宅などで待機し、必要に応じて使用者からの呼び出しに対応することです。
訪問看護では一般的に取り入れられるているものでしょう。
オンコールを担当した看護師には、訪問サービスの提供の有無にかかわらオンコール手当を支給し、実際に訪問した場合にはその労働時間分の賃金を支払うといったことがよく取り入れられています。
しかしオンコールを担当する看護師からすれば、訪問しない時間は睡眠が出来るとはいえ、電話にすぐ対応できるように一種の緊張感を持って寝るわけです。その時間は労働時間に該当しないのでしょうか。
もし労働時間に該当するのであれば、少なくとも最低賃金と時間数、深夜割増手当を支払わないといけません。事業者にとって、就寝中に賃金を支払わなければならないとなったら、中々納得出来ないと思うことは一般的な感覚でしょう。
結論から言えば、一般的にオンコール待機の時間は労働時間に該当しないといえます。ただし、それは一般的な回答であってオンコールの待機時間が実質労働時間に該当する場合には賃金を支払う義務が生じます。
そこでこの記事では、オンコール手当が労働時間に該当すると判断されうる要素につき解説をしました。逆にいえば、この記事で記載されていることを理解し実態に反映すれば手当を支給するのみで問題ないと言えるので、ご一読いただけますと幸いです。
労働時間と判断される要素
まず最初にご認識いただきことは「賃金が発生する=労働時間」という関係性です。
そしてこの労働時間とは「使用者の指揮命令下における時間」と定義づけることが出来ます。例えば、営業所に来て事務仕事をしている時間、訪問にいく時間は会社(上司)の指揮命令により行われていますよね。だから労働時間に該当し、賃金を支払う必要があるというわけです。
ではこの使用者の指揮命令下における時間と判断される要素が何なのかが大事になります。その要素が次の3つです。
従事している時間は業務性、待機性、義務性が有るのかどうか総合的に判断し労働時間に該当するか判断されるということです。
それぞれ確認しましょう。
①業務性
労働者が行っている行為が、使用者の業務に関連しているかどうか、これを義務性といいます。
訪問看護で考えてみましょう。
看護師が訪問して介護をする時間、看護をするために訪問するまでの移動時間。これは当に訪問看護ステーションの業務そのものですね。また営業所に来て制服を着替えることが義務付けられているのであれば、その着替える時間も義務性の観点から労働時間と言えるでしょう、
②待機性
待機性とは労働者が業務に従事するために待機している状態にあるかどうかです。
訪問看護事業で考えると、次の利用者の看護する時間までの手待ち時間がそれに該当します。この時間、訪問していないから給料は発生しないということは認められません。使用者による待機命令と考えられるからです。
オンコール対応の待機時間も待機性は少なからずあるといえるでしょう。
③義務性
義務性とは労働者が使用者の指示に従って行動する義務があるかどうかということです。
訪問看護で考えてみましょう。
Aさんの自宅にいき、その後はBさん宅にいき、帰宅後この書類を作成してくださいといったことを上司から指示を受けた場合に、従う義務は当然ありますよね。これが義務性です。
義務性がない時間として、例えば通勤時間中や休憩時間が該当します。その時間にスマホを見ていても、仕事をしていなくも労働者に非はありません。自由に行動できる時間に該当し、義務性が全くなく労働時間に該当しないから賃金は発生しないという関係です。
以上3つの要素で労働時間に該当するかどうかを判断します。
ではオンコールの待機時間は?
本題の在宅中のオンコール待機の時間が義務性、待機性、業務性はどうなるのか。
過去の裁判例からも営業所とは別に在宅にて待機する時間は業務性、待機性、業務性は低いと評価される傾向があります。
ポイントは自宅です。
これは、労働者が自宅という私的な空間で、業務から解放された状態で待機しているという点が考慮されるためです。
自宅に帰れば場所や時間などの拘束が比較的少なくなりますよね。また自宅に帰ってから電話対応以外に事細かく会社から指示をされることも一般的にはありません。
以上の観点から一般的にオンコールの待機時間は労働時間に該当しないと言えます。
オンコール待機時間であっても労働時間に該当するケース
労働時間かどうかの判断基準はその時間が指揮命令下にあるかどうか、つまりその時間中に生じる義務性、待機性、業務性で判断するということでした。
このことから、オンコールの待機時間だから労働時間に該当しないという単純な関係性ではなく、そのオンコール待機時間が義務性、待機性、業務性が高い場合には労働時間に該当するといえます。
そうなると会社はその時間中の賃金を支払う必要がありますし、看護師の方は賃金を支払うように請求出来るようになるわけです。
以下例として、オンコール待機時間中の3つの要素が高まる例を載せました。
業務性が高まる例 | ・呼び出し頻度が高く、実質的に業務に従事する時間が長いこと ・在宅中に事務手続きや研修受講に対し事細かく時間や受講講座に指示を出す |
待機性が高まる例 | ・呼び出しがあれば5分以内に出勤しなければならないという状況下 |
義務性が高まる例 | ・在宅中の対応手順やマニュアルが詳細に定められており、その手順に従うことを義務付けられている ・緊急時対応の責任が重く、対応を怠った場合の責任が明確に定められている場合 |
呼び出し頻度が高く、実質的に業務に従事する時間が長いと、いくら睡眠中とはいえ業務性は高くなり訪問時間以外も労働時間と見られる可能性があります。
呼び出しがあれば5分以内に出勤しなければならないという状況下に関しては、他業種でありますが、過去の判例でも緊急時にすぐ対応出来るような状況で睡眠をしている場合、それは睡眠時間中であっても労働時間と判断されています。業務の待機という性格が濃くなるからですね。
結論としては一般的に自宅に帰れば義務性、待機性、業務性が弱まります。それは私生活領域だからです。
その私生活領域にあれこれ会社が指示を出せば労働時間に該当する可能性があるとご認識ください。
まとめ
在宅によるオンコール対応の待機時間は労働時間に該当するかどうかにつき解説しました。
一般的には労働時間に該当しません。
それは自宅という私生活領域に移り、義務性、待機性、業務性が弱まるからです。逆にいえば、私生活領域にも関わらず具体的な指示を出すのであれば、それは労働時間では?ということになります。
また実際に訪問しない時間でも呼び出しが多いことが常態化していれば業務性、待機性、義務性と高まるので睡眠時間全体が労働時間に該当すると判断されることも有りえるとは記事に書いた通りです。
訪問看護の事業者は、オンコール待機時間を労働時間にしないために、これら3つの要素を考慮し特定の看護師に物理的にも責任的な意味でも加重的な負担がかからないように管理し、私生活領域中は事細かに指示をしないようにということを意識されてみてください。
私生活領域は労働からの解放される場所という前提での制度設計が大事です。
また他の注意点としては就業規則などにオンコール手当をどのように記載するかです。例えば固定で6,000円払う場合に、それはどういった内容に対する手当であるのか明確化することが望ましいでしょう。
オンコールを担当する者は1日あたり6000円を支給するといった漠然とした内容ではなく、趣旨と内容を明確に合意出来るような記載にすることです。これに関しては事業者別に適切な文言が決まるものなので、最後の注意点としてとどめます。
お疲れ様でした。