共同生活援助における預り金管理の基本とリスク回避のポイント

はじめに

障害福祉サービスの中でも、共同生活援助(グループホーム)は利用者の日常生活を支える重要な場です。

その利用者の中には、金銭管理が難しく施設にお金の管理を任せたいと希望する方も多くいるかと思います。

こうした利用者のニーズに応えるためには、安全で透明性の高い管理体制を整えることが求められますが、管理が不適切だと、利用者との信頼関係が損なわれたり、金銭トラブルにつながるリスクも生じます。

 

本記事では、共同生活援助の事業者が押さえておくべき預り金管理の法的根拠や具体的な注意点等を解説します。

 

預り金管理とは?

一般的に、障害のある利用者の方の現金や通帳などを事業者が預かり、預かった現金や通帳などが適切に使われるように管理することを「預り金管理」と言います。

預り金管理は利用者の「預かってほしい」という意思のもとに成り立つものです。

つまり、事業者が利用者の同意を得ず勝手に預り金管理をすることはNGです。

また、利用者の大切なお金を預かるため、事業者には当然に不正や間違いが起こらないよう管理する責任が生じます。

 

預り金管理の法的な位置づけ

共同生活援助における預り金管理は、障害者総合支援法の下記の条文中の「日常生活上の援助」にあたると一般的には考えられています。

つまり預り金の管理は、共同生活援助で提供するサービスの一つということですね。

 

第五条 (1~16省略)

17 この法律において「共同生活援助」とは、障害者につき、主として夜間において、共同生活を営むべき住居において相談、入浴、排せつ若しくは食事の介護その他の日常生活上の援助を行い、

又はこれに併せて、居宅における自立した日常生活への移行を希望する入居者につき、当該日常生活への移行及び移行後の定着に関する相談その他の主務省令で定める援助を行うことをいう。

    (18~28省略)

 

預り金管理で気をつけること

厚労省の通知で、預り金管理に関しては以下を満たすことが求められています。

 

◆預り金管理 3つの要件◆

① 責任者と補助者を選定され、印鑑と通帳が別々に保管されていること

② 適切な管理が行われていることの確認が複数の者により常に行える体制で出納事務が行われること

③ 利用者との保管依頼書(契約書)、個人別出納台帳等、必要な書類を備えていること

参考:障害福祉サービス等における日常生活に要する費用の取扱いについて (平成18年12月6日) (障発第1206002号)

 

また、自治体独自でガイドラインを出していたり、運営指導で行っている指導内容を公表している自治体もあるので、ぜひ参考にされてみてください。

 

特に、預り金管理規程を作成し、それに沿って管理するようにと自治体が指導しているケースが多いように思います。

預り金管理規程に関しても公表されているひな形がいくつかありますので、それをベースとして、事業所独自のものを作成することをおすすめします。

 

用意しておくべき書類

先述の預り金管理の要件の一つである、必要な書類の整備について

具体的にどんな書類を用意しておくべきでしょうか。

以下に例としてまとめましたのでご参考ください。

 

① 預り金管理規程

預り金管理の基本方針や、通帳や印鑑の保管場所や方法、出納のルールなどを明確化するものです。

職員間で認識を統一し、不正やミスを防ぐために作成しましょう。

 

② 委託契約書

利用者が事業者に預り金の管理を委託する際の、正式な合意を記録するものです。

契約書があれば、後から管理内容やルールを巡ってトラブルが発生した場合にも証拠として用いることができます。

 

③ 保管依頼書

利用者が利用者が事業者に預り金の管理を正式に依頼するものです。

あくまでも預り金管理は利用者の希望に応じて行うものなので、利用者の希望があったことを文書に残すことが重要です。

 

④ 預かり証

預けた金額と目的を明確にし、利用者と事業者がお互いに確認できる記録を残すものです。

事業者側は何を預かったのかひと目で分かりますし、利用者に対して管理の透明性を示す効果もあります。

 

⑤ 個人別出納台帳

利用者ごとに、預り金の入出金の動きを一目で確認するための台帳です。

不正防止や会計監査の際にも役立つので必ず作成しましょう。

また、トラブルなどが起きた際に、利用者やその家族への説明責任を果たすためにも必要です。

 

※これ以外にも事業所の状況にあわせて書類を作成しましょう。

 弁護士などの専門家に相談することもおすすめです。

 

預り金管理費用の考え方

預り金管理にあたって、利用者から管理費用をもらうことも可能です。

ただしその場合は、管理費用の計算根拠を明確にして適切な額にする必要があります。

例えば、管理に必要な消耗品やシステムの利用料などを合算して、それを利用者数で割った額にするなどが考えられます。

 

◆注意点◆

・「預り金の額に対して、月当たり◯%」といった取扱いは認められません。(計算根拠が明確ではないため)

 

・計算に人件費を含めてよいかは自治体により判断が分かれます。

 「人件費は介護給付費でまかなわれているので含められない」という見解のところもありますので、指定を受けた自治体へご確認ください。

 

さいごに

いかがでしたでしょうか。

預り金管理は非常にセンシティブな業務なので、利用者やその家族にとって大切なお金を取り扱う以上、慎重な運用が必要です。

 

管理方法の透明性が欠けていたり、トラブルが起きれば利用者や家族からの信頼も損なわれます。

また、利用者の同意を得ずに管理していたと見られれば、経済的虐待を疑われるリスクもあります。

 

適切な管理体制を作るにあたり、本記事が参考になれば幸いです。

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