はじめに
就労継続支援事業所(A型・B型)では、利用者が事業所内だけでなく、企業などの外部で働く「施設外就労」を行うことができます。
施設外就労を行うために事業者は様々なルールを守る必要がありますが、
その一つに「施設外就労先の企業との間で請負契約を結ぶこと」というものがあります。
ここでよく言われるのが、同一法人内の別事業所とは請負契約を結べないため、就労継続支援事業所を運営する法人とは別の法人でなければ施設外就労はできないということです。
では、就労継続支援事業所を運営する法人と、請負契約を結ぶ別法人の代表取締役が同一人物の場合はどうでしょうか。
つまり、「A法人(就労継続支援事業所)とB法人(別事業)が施設外就労の請負契約を結ぶ際、どちらの法人も代表取締役がCさん」というケースですが
このような場合には、「利益相反」の問題が発生する可能性があります。
そこで本記事では、就労継続支援事業所が施設外就労で注意するべき「利益相反」の問題について解説します。
※施設外就労の全体的なルールを確認したい方は下記の記事をご参考ください。
施設外就労のルールや注意点を分かりやすく解説【就労継続支援A型】
利益相反行為(取引)とは
利益相反行為とは、利益が相反(あいはん)する=利益が対立する状況を指します。
一般的に、法人同士の取引において代表者が同一である場合には、客観的に見た時に会社にとって適正な契約が行われるかどうかが問題視されます。
また、会社とその会社の取締役の間で契約を結ぶ場合も同様です。
どちらの場合でも利益が片方に偏ってしまう可能性があることから、会社法では法人の保護のために利益相反行為を規制しています。
(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。一 省略
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 省略2 省略
「就労継続支援事業所の代表者が、代表を務める別法人を施設外就労の受け入れ先として請負契約を結ぶ場合」は、上記の「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」に当てはまります。
このような場合には、「株主総会において、重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない」とされていますので、利益相反行為が完全に禁止されているわけではないということが読み取れます。
「会社にとって良くない取引がされないように、事前に株主総会の承認を受けなさい」ということですね。
なお、取締役会設置会社の場合は、株主総会ではなく取締役会の承認を受けなければならないとされています。(会社法第365条)
一人会社の場合は?
代表取締役が一人で他に取締役がいない会社では、実質的に意思決定が一人の人物によって行われます。
このような場合にも株主総会の承認は必要なのでしょうか。
実は過去に、「取締役が1人で株主も1人の会社においては、会社法356条1項の利益相反取引の規制は適用されない」と判断された判例があります。
(最判昭45・8・20 民集 第24巻9号1305頁)
一人会社では、取締役と会社間で取引があっても、会社の意思決定と取締役の意思が一致するため、利益相反の問題は生じない。そのため株主総会の承認は不要。というのがこの判例の趣旨です。
これをふまえると、もし施設外就労の請負契約において、両方の法人が一人会社で、かつ代表取締役が同じであれば、この判例を考慮すると利益相反取引とはならない可能性があると言えます。
とは言え、行政などの第三者から不透明に見えてしまうリスクがあることを考えると、株主総会の承認を得たとして、形式的に議事録等を作成しておくのがベターというのが個人的な見解です。
就労継続支援は国から給付費を受け取る事業なので、取引の適正性を示すことへの意識を高めていきましょう。
利益相反を回避するための対策
利益相反とみなされる取引を適切に進めるための対策としては、以下が考えられます。
① 契約の透明性を確保
施設外就労の業務内容や範囲を具体的に決めたり、適切な価格設定をすることによって、第三者が見ても合理的な契約だと分かるようにしましょう。
② 社内外の監査を活用
利益相反が起きていないか、社内の監査機能を使って定期的に確認したり、
弁護士などの専門家に相談することも有効です。
さいごに
いかがでしたでしょうか。
この記事のポイントをまとめると次のとおりです。
適切な手続きを踏めば、施設外就労を円滑に実施しつつ、利用者の働く機会を増やすことができます。
今回紹介したような形で施設外就労をお考えの事業者は、ぜひ本記事を参考にして適切に施設外就労を行っていただけると幸いです。