就労継続支援A型の基本報酬
就労継続支援A型事業所における基本報酬の単位数は、スコア方式で決まります。
これは、利用者の平均労働時間や生産活動の売上、
利用者が働く環境整備の取り組みなど5つの項目があり、
項目ごとに点数を付け、その合計点数により基本報酬が決まる方式です。
今回は、5つの項目のうち「多様な働き方」について
事業者は何をすれば加点になるのか、また加点するための根拠として整えておくべき資料について解説します。
※スコア方式の全体的な内容を知りたい方は下記の記事をご覧ください。
多様な働き方とは?
就労継続支援A型の事業者には、利用者へ就労の機会を提供する立場であることから
利用者からのさまざまな「働き方」のニーズに対応できることが求められています。
そのため、就労継続支援A型事業所で利用者が多様な働き方をできる制度が整っている
またそれが活用されていることで加点されます。
加点の対象となるものは次の①~⑧です。
①免許・資格取得、検定の受検勧奨に関する制度
②利用者を職員として登用する制度
③在宅勤務に係る労働条件及び服務規律
④フレックスタイム制に係る労働条件
⑤短時間勤務に係る労働条件
⑥時差出勤制度に係る労働条件
⑦有給休暇の時間単位取得又は計画的付与制度
⑧傷病休暇等の取得に関する事項
点数の考え方
点数は次のように考えます。
(1)先述の①~⑧のうち、任意の5項目を選ぶ
(2)就業規則などの規定で定めている項目を数える
→定めていると+1
※必ず書面が作成されている必要があります
経営者の頭の中にあるだけ等ではNGです!
※毎年度4月1日時点で定められていることが必要です
(3)そのうち、実際に前年度中に利用者が希望して制度を活用した項目を数える
→活用実績があると+1
※ただし、雇用契約を結んだ利用者に限ります
(4)最終的な値がいくつになったかによって次のように加点されます
注意点
雇用している労働者が常時10人に満たない事業者は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出は義務ではありません。
ですが、義務がないからと言って何も作成しなくて良いわけではなく、
就業規則に準ずる書類(社内規定など)を作成しておかなければならないのでご注意ください。
なお、各制度は利用者本人が希望した時に利用することができるようにする
必要があるため、すべての利用者に適用される形で定める必要があります。
そのため、個別で利用者と結んだ雇用契約書のみい定められているような場合は
要件を満たしているとは認められないとされています。
(令和3年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.2(令和3年4月8日)問17 参照)
それでは、事業者は具体的に何をすれば良いのでしょうか。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
※自治体により細かいルールが異なるため、判断に迷う場合は必ず事前に各自治体へ
ご確認をお願いいたします。
①免許・資格取得、検定の受検勧奨に関する制度
事業所の利用者が働くために必要な知識・能力を向上させることを目的として
免許や資格、検定などの取得を支援する制度を作りましょう。
例えば次のようなものです。
・免許や資格、検定などの取得を支援するための訓練を企画・実施する仕組み
・教育訓練機関が開催している訓練に参加出来る仕組み
・訓練費用、受験費用等を助成する仕組み
これらを就業規則等に定めていると、+1点です。
また、就業規則等に定められた上記のような制度を
利用した利用者が前年度中に 1 名以上いれば、さらに+1点となります。
※雇用契約を結んだ利用者が希望して制度を利用した場合に限ります
注意点
◯ 免許や資格、検定などは利用者が一般就労への移行を促進したり
給与のアップにつながるようなものが対象とされており、
趣味・教養的なものや極めて初歩的なものは基本的に対象外です。
◯ 利用者が自力で事業所に通勤するために自動車運転免許を取得することに対して支援を行った場合も
制度を利用した実績として認められます。
(令和3年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.4(令和3年5月7日) 問12 参照)
◯ 資格取得のための講習会への参加など、資格取得まで至っていることまでは必須ではありません.
ただその場合でも、例えば個別支援計画に資格取得までのスケジュール等を記載するなど
制度を活用した実績が分かるようにしておく必要があります。
(令和3年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.6(令和4年2月10日)問3 参照)
根拠資料
・就業規則等
・免許証、資格証、検定修了証など
・資格取得までのスケジュール等を明記した個別支援計画など
②利用者を職員として登用する制度
利用者を就労継続支援A型事業所の職員として登用するための制度を作りましょう。
具体的には次のような内容を決める必要があります。
・登用の基準
・登用方法(試験など)
・登用後の雇用条件等
これらを就業規則等に定めていると、+1点です。
また、この制度を利用して職員に登用した方が1名以上おり
その方が次の2つをどちらも満たしていると、さらに+1点となります。
・雇用継続期間が前年度において6ヶ月以上に達している
・前年度末まで雇用が継続している
※雇用契約を結んだ利用者が希望して制度を利用した場合に限ります
注意点
必ずしも職業指導員や生活支援員など、人員基準でに定められている職種でなくてもOKです。
(例:事務、運転手、調理員など)
根拠資料
・就業規則等
・事業所の職員として登用したことが分かる雇用契約書など
・登用基準をクリアしたことが分かる評価書など
・登用試験の結果など
③在宅勤務に係る労働条件及び服務規律
利用者が在宅勤務を行うための制度を作りましょう。
具体的には次のような内容を決める必要があります。
・在宅勤務の対象者
・在宅勤務時の服務規律
・労働時間、出退勤管理の方法など
これらを就業規則等に定めていると、+1点です。
また、在宅勤務制度を利用した利用者が前年度中に 1 名以上いれば、さらに+1点となります。
※雇用契約を結んだ利用者が希望して制度を利用した場合に限ります
根拠資料
・就業規則等
・在宅勤務を行っていることが分かる出勤簿など
④フレックスタイム制に係る労働条件
フレックス勤務制度について就業規則等に定めていると、+1点です。
フレックス勤務とは、簡単に言うと始業と終業の時刻を利用者が決めて勤務する形態です。
また、フレックス勤務制度を利用した利用者が前年度中に 1 名以上いれば、さらに+1点となります。
※雇用契約を結んだ利用者が希望して制度を利用した場合に限ります
注意点
フレックス勤務制度を作るためには、
労働基準法上、労使協定で次の事項を決めておく必要があります。
・フレックス勤務制度の対象となる労働者の範囲
・清算期間
・清算期間における総労働時間など
根拠資料
・就業規則等
・労使協定書
・フレックス勤務だったことが分かる出勤簿など
⑤短時間勤務に係る労働条件
利用者の障害の特性に応じて、一日の所定労働時間が短い労働条件を設定して勤務することができる制度を作りましょう。
具体的には次のような内容を決める必要があります。
・短時間勤務の対象者の範囲
・労働時間
・休憩時間
・休日
・賃金など
これらを就業規則等に定めていると、+1点です。
また、短時間勤務制度を利用した利用者が前年度中に 1 名以上いれば、さらに+1点となります。
※雇用契約を結んだ利用者が希望して制度を利用した場合に限ります
注意点
育児・介護休業法の規定に基づく所定労働時間の短縮措置は法的に定められたものなので
これによって短時間勤務をしたとしても加点の対象とはなりません。
根拠資料
・就業規則等
・短時間勤務だったことが分かる出勤簿など
⑥時差出勤制度に係る労働条件
利用者が1日の所定労働時間を変えることなく、始業または終業時刻を繰り上げor繰り下げして
勤務できる時差出勤制度を作り、就業規則等に定めていると+1点です。
また、時差出勤制度を利用した利用者が前年度中に 1 名以上いれば、さらに+1点となります。
※雇用契約を結んだ利用者が希望して制度を利用した場合に限ります
根拠資料
・就業規則等
・始業時刻や終業時刻が分かる出勤簿など
⑦有給休暇の時間単位取得又は計画的付与制度
時間を単位として与える有給休暇、または労使協定によって有給休暇を計画的に付与する制度を作りましょう。
それぞれ具体的には次のような内容を決める必要があります。
【時間を単位として与える有給休暇※の場合】
※以下、時間単位年休と呼びます
・時間単位年休の対象労働者の範囲
・時間単位年休の日数
・時間単位年休の 1 日の時間数
など
【有給休暇を計画的に付与する制度の場合】
・有給休暇の計画的付与の方法
など
これらを就業規則等に定めていると、+1点です。
また、定めた制度を利用した利用者が前年度中に 1 名以上いれば、さらに+1点となります。
※雇用契約を結んだ利用者が希望して制度を利用した場合に限ります
根拠資料
・就業規則等
・労使協定書
・出勤簿や給与明細など
⑧傷病休暇等の取得に関する事項
利用者が業務外の事故等が原因で長期にわたる治療等が必要な疾病やケガを負った場合に
治療のための休暇を取得できる制度や、療養中・療養後の短時間勤務制度、失効年休積立制度などを
就業規則等に定めていると、+1点です。
また、定めた制度を利用した利用者が前年度中に 1 名以上いれば、さらに+1点となります。
※雇用契約を結んだ利用者が希望して制度を利用した場合に限ります
なお厚労省のポータルサイトで傷病休暇の導入事例を見ることができますので
よろしければ下記のリンク先をご参考ください。
https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuukaseido/recuperation.html
注意点
病気やケガの治療のための休暇については、必ずしも給与が発生していなければならないわけではなく
無給の場合も加点対象の制度と認められます。
(令和3年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.6(令和4年2月10日)問4 参照)
根拠資料
・就業規則等
・出勤簿など
さいごに
いかがでしたでしょうか。
本記事を参考に、利用者の障害の特性や生産活動の内容に応じて
取り組みやすい制度から定めていただけますと幸いです。