最低賃金法という法律はほとんどの方は聞いたことがある法律ではないでしょうか。
令和6年には最低賃金が全国平均で平均51円上がったと話題になりました。
この最低賃金法とは文字通り、事業主が従業員に支払うお給料の最低ラインとして賃金額を定めている法律です。この記事の執筆時点で、東京都の最低賃金は1163円、大阪府は1,114円といったように地域別に一時間あたりの賃金を定めています。
つまり労働者がどんなにパフォーマンスが悪くても、責任が軽微であっても、年齢国籍在留資格に関係なく最低賃金法を下回ることは違反ということです。違反すると50万円以下の罰金刑の定めがあります。
しかしながら、御本人のもつ障害が理由で、他の労働者と労働生産性という指数で比較した際に劣ってしまう、といったケースはありますよね。日本国憲法でも勤労権を権利として認め、義務と課していながら最低賃金法を硬直的に運用しようとすれば、障害を持つ方の就業の機会を奪うことにも繋がりかねません。
そこで最低賃金法の7条では特定の労働者に対しては、賃金の減額特例許可制度があります。簡単に言えば、特定の労働者に対しては最低賃金法の金額より下回ってもいいということですね
この特定の労働者のうちの一つが『精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者』で最低賃金法第7条1号に定められています。そして障害を持つ方が就労している就労Aの事業者が関係する規定ということです。
もし就労Aの事業者が特定の利用者に対して他の利用者と比べて労働生産性の指数が低いという合理的な理由で賃金を下げたい場合には、減額特例の許可が必要になります。
その際の手続の流れと注意点につきまとめました。
注意点!
手続の話の前に早速注意点です。
大きく3つのご確認下さい。
それぞれ確認しましょう。
① 特定の従業員の特定の業務に対して特例許可が下りる
この許可は特定の従業員に対して許可が下りるものです。
例えば3人減額特例の許可を受けたいのであれは、申請書は3つ提出しないといけません。会社単位に下りる許可ではないのでご注意下さい。
また許可が下りた労働者が従事する時間は全て許可を受けた賃金になる、というわけではありません。
労働局から許可を受けた業務内容に従事する時間においては、減額が認められるという関係性です。
許可を受けた以外の業務に従事する時間は通常の最低賃金法が適用されますのでご注意下さい。
② 障害が従事しようとする業務の遂行に、直接、著しい支障を与えているかどうか
この許可は障害を持つ従業員が特定の業務に従事する場合に下りる特例許可だということは前述した通りです。
しかしここでも注意が必要です。
従業員が障害を持っていれば減額特例の対象になると思っている方もいますが、それだけでは足りません。
特に認識が必要なことは労働者が持つその障害が、従事しようとする業務の遂行に、直接、著しい支障を与えているかどうかということです。
著しい支障を与えていると認められれば、その特定の労働者がその業務に従事する時間の最低賃金は減額を認める(許可を与える)という関係性。
ご理解いただけますでしょうか。
③ 労働能率の減額率を算定できているか
この許可を取得するにあたっては、通常の労働者と比較して障害が原因で著しく労働能力の低いことが条件です。
比較する労働者は同じ事業場で働く他の労働者で類似の業務に従事しており、申請時点で同程度以上の賃金が支払われいている最低位の能力を有する方です。
言葉が悪くて恐縮ですが、事業者は通常の労働者で一番パフォーマンスが低い労働者と賃金を減額したい労働者を比較して、労働能率を数値化する必要があります。その数値化した割合を上限として賃金額を減額できる率を設定して具体的な賃金額を決定し許可を受けるということです。
以上が注意点です。
申請書・添付書類を確認する
上記の注意点を踏まえ、申請を考える方は申請書と記載例を確認しましょう。
(1)表紙
まずは表紙です。
前述の注意点が確認できるのではないでしょうか。
記載例を別タブで表示してご確認下さい。
(2) 減額算定の根拠資料
申請書表紙には減額率を記載する箇所がありますが、その率の計算根拠や合理性を示すことが必要です。
任意様式ではありますが、次のような書類が公開されています。
簡単に言えば比較労働者と同じ時間、類似業務に従事してどれだけの成果に差が出たのか記載するということです。
この比較期間は2週間程度になります。
この比較結果で減額の上限値が決まります。
以上数値的な比較を算出し、減額対象の労働者の労働経験や責任の程度に基づき表紙に記載する減額率を定めます。当然、上限値は越せませんので注意が必要です。
このように感覚的なものでは足りず、数字で合理性を証明すること及び従事する作業が障害の種類と関連性を帯びていることも確認されます。障害の種類や程度は障害者手帳等等で証明しするために提出しますが、申請時には必ず御本人から承諾を受けてから進めましょう。
その他注意点
・障害者手帳等が交付されていなくても、その他の確認資料でも証明資料として認められる可能性があります
・従業員からすれば賃金が下がることは重大な不利益変更です。労働局の許可があるからといって、一方手的に変更することは避けて下さい、必ずご本人と話をして契約を結びましょう
・特例許可の有効期限は最長3年間です。許可の有効期限が切れたら通常の最低賃金法が適用されます
・許可を更新する場合には更新申請が必要です。最寄りの労働基準監督署に提出しましょう
・許可の有効期間中に従事させようとする業務の種類及び労働の態様が新規許可時と変更した場合には許可は無効です。再度申請しましょう
まとめ
就労A事業者さまに向けて、最低賃金法の減額特例の許可につき知っておいていただきたいことをまとめました。
あくまでも障害を持つ特定の従業員が特定の業務に従事し、類似する業務に従事する通常の労働者と比較して労働能率が著しく低く、その理由が障害が原因の場合には減額特例の許可が下りるという関係性です。
なんでこんなにうるさく言っているのかというと、最低賃金法は罰則が厳しいことと従業員にとって賃金は非常にナイーブことだからです。おいそれと下げることに納得する従業員は一般的にはいないと考えていいでしょう。
もし一方的に賃金を下げられたという感情があれば、労働者も感情的になり労働トラブルに繋がり貴社の評判を下げることになるかもしれません。
なので特例の減額許可を申請する場合にはしっかりと制度の内容を理解した上で、従業員との関係性もしっかり考慮し話し合いを重ねた上で申請する、しないをご判断いただければ幸いです。