労働基準法には1日8時間週に40時間以上働かせてはならないといった会社側が守らなければならない労働契約の最低基準が定められています。
その労働基準法の41条に労働時間等に関する適用除外という項目があることをご存知でしょうか。
具体的には、労働基準法で定められた労働時間や休日、休憩等に関しては労働基準法の適用しなくてもいい者が示されています。
その者の1つが監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたものです。
監視というのは警備員やマンションの管理人がイメージしやすいでしょう。
この規定からか共同生活援助のグループホームの管理者から「夜勤中、ほとんど定期巡回だけでやることもないのだが、それでも最低賃金は支払わないといけないのか。」「夜勤手当を支払えば、夜間の割増賃金は支払わなくていいと聞いたことがあるが本当か」というような質問をうけます。
確かに労働基準法41条ではそのような決まりがありますが、グループホームの夜間支援員が関係する法令はどちらかというと労働基準法施工規則の23条が該当するケースが多い印象です。具体的にどう書かれているか確認しましょう。
第二十三条 使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、様式第十号によつて、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、これに従事する労働者を、法第三十二条の規定にかかわらず、使用することができる。
この労働基準法施工規則23条の許可は宿日直の許可と呼ばれています。労働基準法32条とは労働時間や休憩、休日の規定です。
つまり、もし共同生活援助に夜勤勤務で働く支援員が宿日直の許可をうければ、労働基準法上の労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないでも法違反にはなりません。時間外労働としてカウントされないので時間外労働の上限規制も割増賃金も気にする必要がなくなります。
だとすれば会社側としては宿日直の許可が受けられるのであれば、許可を受けたいのが本音でしょう。しかも業務内容に変更がないのであれば許可の有効期限はありません。
では実際に共同生活援助の支援員が宿日直の許可を受けられるのでしょうか。
結論を言えば許可は受けられます。
通達でも社会福祉法人(共同生活援助などの施設)の宿直業務の者が労働基準法施工規則23条の許可を取得するにあたって別途取扱い基準の解釈が示されています。
ただ最低基準を定めた労働基準法の適用を免れるというハードルをクリアーすることは簡単ではないです。
もしこの記事を読んでいる方が、うちの共同生活援助は夜勤中ほとんどやることないし、ワンオペだけど対象になるのであれば可能性があるのであれば許可を取得したいと思う方は許可を取得するためのポイントにつき解説しましたのでご確認下さい。
夜勤≠宿直!!
共同生活援助を経営している方からすれば、夜勤と宿直は似た概念かもしれませんが、労働法と障害者総合支援法を勉強した者からすれば異なる印象を持ちます。
そこで労働法の観点では宿日直とはどういう状態を指すのか確認しましょう。
いまから書く宿日直の許可は共同生活援助に限らず全ての産業に共通する宿日直の許可基準です。グループホームで取得する場合も当然満たさないといけない最低基準になります。
それを踏まえ宿日直の許可基準を確認しましょう。
ポイントは3つです。
それぞれ確認しましょう。
①常態としてほとんど労働をする必要のないこと
宿日直の許可を受けるためには常態としてほとんど労働をする必要がないことが条件です。
具体的には定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とした時間が該当します。
ほとんど労働する必要のない勤務のイメージとしては待機時間に近しいものと言えるでしょう。なので夜勤中に頻繁にやることがある以上は、宿直とは言えません。共同生活援助の管理者からよく言われる「うちは手が空いたときは自由な時間にしている」程度だと該当しないでしょう。
また原則として通常の労働時間とは切り離せることも求められます。
例えば終業時刻に密着した時間帯に、電話対応を義務付けられているのであれば、それは待機には該当しませんよね。
以上申し上げた常態的に労働することがないことが宿日直の許可を受けるための基準の1つ目です。
②宿日直手当について
宿日直の許可を受ければ、労働時間の規制を受けなくなります。
つまり労働基準法だけではなく、最低賃金法も対象外です。働いている時間としての規制を受けないからですね。
であれば宿日直の許可を受ければお金はいくら低くてもいい、というのは流石に乱暴ですよね。
そこで具体的にこの金額以上は支払うようにという最低額が許可基準として設けられています。
その基準が、宿直勤務一回について、当該事業場において宿直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている通常の賃金一人一日平均額の三分の一を下らないものであることです。
簡単に言えば夜勤で働く他の従業員の平均給料の33%以上の手当額というところでしょうか。この手当額以上支払うことが許可要件です。
注意点としてはこの手当とは別に深夜割増賃金を支払う必要があります。
労働基準法、深夜業は適用除外にはならないと決まっているからです。
③宿日直の回数について
労働基準法の適用を受けなくてもいい宿直には上限が設けられています。
具体的には従業員1人あたり週1回までです。
週に何回も宿直で勤務させることは、従業員が複数いて順番に夜勤勤務をすることが条件と言えるでしょう。
共同生活に適用する許可基準の解釈
以上申し上げた3つの基準はグループホームに関わらず全ての業務で宿日直の許可を受ける場合に満たすべき許可基準でした。
つまり宿直許可の一般的な話というこですね。
ただグループホームの夜勤で見回りしかすることがないって現実的にはありえないですよね。
そこでグループホーム等の社会福祉施設においては、上記基準の事務取扱上の考え方が別途通達により3つ明らかにされています。
それが次の3つです。
それぞれ確認しましょう。
(1)通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること
昼間の通常の労働の継続延長は、宿直業務に該当しません。
①で記載した通り常態としてほとんど労働をする必要がない時間が宿日直の許可対象なので、特にやることがない待機性の強い時間、つまり勤務時間の拘束から完全に開放された後の時間が開始時間になるということを示しています
(2)少数の入居者に対して行う夜尿起こし、おむつ取り替え、検温等の介助作業も許可基準の作業に含まれる
①で記載した作業というのは、電話番や緊急時の対応などでしたが、グループホームなどの社会福祉施設の夜間支援の業務がそれのみということは現実的にはありえません。
そこで通達によりグループホームの常態としてほとんど労働をする必要がないことはこれくらいで考えて良いということが示されました。
この宿日直の許可は常態としてほとんど労働することがないことに加えて、労働があったとしても、あまり密度が濃くない(負担がそれほど重くない)ことも条件として含まれていると考えられます。
その作業負担があまり重くない作業として少数の入居者に対して行う夜尿起こし、おむつ取り替え、検温等の介助作業も含まれるという見解を示しました。
ゆえに、大事なことはこれらの作業が軽度であるということです。例えば、おむつの取り替えや夜尿起こしをする際に要介護者を抱きかかえないと出来ないような場合には軽度とは言えないという見解になるでしょう。またそれらの作業事態が夜勤中に1回から2回程度で済み、所要時間も10分程度であれば、軽度な作業として見ることも取扱い基準として記載されています。
上述した作業であっても1時間程度かかるようなものは宿直業務としては認められず、仮に突発的な事情でそれほどかかった場合には、それは許可を受けた後であっても労働時間として賃金を支払うことが必要です。
(3)夜間に十分睡眠が取りうるか
宿直業務の場合、相当の睡眠設備の設置が必要です。
専用の宿直室の有無、広さ、寝具の有無及び種類・数量、冷暖房設備、防火設備等についての記載、見取図等が申請書の添付資料としてあります。記載例では部屋の広さが10平米でベッド、冷暖房、TVと書いています。
また労働局の現地調査もあるので、細かく確認されるので都度対応が必要になるでしょう。
以上です。
夜間支援等体制加算に注意
すでに夜間支援等体制加算を取っているグループホームの方も多いと思いますが、
この加算は夜勤と宿直で加算額が異なりますのでご注意ください。
例えば、夜間支援の対象利用者が5人の場合で比較してみましょう。
※ 全ての単位数はこちらでご確認ください。
この場合で1日の加算額をシュミレーションした結果は次のとおりです。
夜勤では、224単位✕利用者5名✕地域単価10円=11,200円
(対象者が全員区分3だった場合で計算)
宿直では、90単位✕利用者5名✕地域単価10円=4,500円
なお、もし夜間は二人体制で一人は夜勤、もう一人は宿直にするような場合は、
夜間支援等体制加算(Ⅰ)に上乗せで夜間支援等体制加算(Ⅵ)を取ることができます。
夜間支援等体制加算(Ⅵ)とは、(Ⅰ)を取っていることに加えて、宿直の職員が定期的な居室の巡回や緊急時の支援等を行える体制があることを評価するものです。
※(Ⅵ)単体でとることはできない点につきご留意ください。
まとめ
グループホームの夜勤勤務の支援員が労働時間や最低賃金法の規制を受けることが無くなる、宿日直の許可基準につきまとめました。
ポイントとしては基本的にやることはほとんどなく、定期見回りや非常時の対応、軽易な介助しかしない時間帯が宿日直の許可対象になるということです。
許可を取得することが難しいというイメージを持った方はいらっしゃるのではないでしょうか。
上記考え方から基本的に夜勤勤務をワンオペで対応していたら許可取得は無理ではないが難しくなることは間違いありません。対して夜勤が二人体制で一人は宿直の許可を取得するであれば許可も取りやすいイメージも湧くのではないでしょうか。
またここまでの話は日勤と夜勤を両方とも従事する人の話でしたが、夜勤しかしない支援員の場合には別の許可手続きが対象です。それが労働基準法41条の監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたものです。
冒頭部分で話をしたものですね。
その場合には別の許可基準があるので、また別の記事をまとめます。41条の許可を取得出来れば、別途最低賃金法の減額特例の許可申請も一緒に行えるケースが多く、規則23条と同様に労働基準法が一部適用されなくなるため、夜勤業務のみの支援員がいる経営者の方はぜひ読み進めて見て下さい。
お疲れ様でした