はじめに
障害福祉サービスを開業するためには、自治体へ申請して指定を受けることが必要ですが、
「事業所予定物件について建築基準法上の確認をするように」と役所の担当から言われたり、申請の手引に書かれているのを見たことはないでしょうか。
障害福祉サービスをやりたいのに、いきなり建築基準法というワードが出てきて戸惑った方もいるかもしれません。
今回は障害福祉サービスの指定を受けるために必要な建築基準法の確認について解説します。
なぜ建築基準法上の確認が必要?
障害福祉サービスの主な根拠法令は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下、障害者総合支援法と表記します)です。
障害福祉サービス事業者は、この法律や、これを受けて制定されている施行規則、各サービスの人員、設備及び運営に関する基準等に基づいて指定を受け
ルールを守りながら事業を運営します。
事業者の指定に関する条文はいくつかありますが、実は「障害者総合支援法以外の法律も守らなければならない」という明確な規定はありません。
ですが、障害者総合支援法や施行規則、各サービスの基準だけ守っていれば良いわけではありません。
障害福祉サービスは、サービスの対象者が様々な障がいを持つ方です。
そのため、例えば設備で言えば一般的なものよりも安全や防災面に配慮する必要があると考えられています。
そういった背景から、障害福祉サービス事業に関しては特別なルールを定めている法律がいくつかあり、
当然、事業者はそれらの関係法令を守る必要があるということです。
今回のテーマである建築基準法は、主な関係法令の一つです。
建築基準法ってそもそも何?
建築基準法は、建物の敷地、構造、設備、用途に関して、国民の生命や健康、財産を守るための最低限の基準を定めた法律です。
その中で「建物が何のために使われるか」、つまりその目的や機能に応じた使用分類が定められており、これを建築基準法では「用途」と言います。
建物の用途は安全性や防災面で必要な基準が異なるため、建築基準法によりいくつかのカテゴリーに分けられ
それぞれに応じた規制が定められています。
障害福祉サービスを提供する建物の多くは建築基準法上「児童福祉施設等」と言って、避難に支援が必要な人が利用する施設と位置づけられ、規制が強化されています。
また、共同生活援助(グループホーム)の多くは「寄宿舎」として分類され、児童福祉施設等と同じように通常の建物よりも多くの規制が課されています。
具体的な確認方法
建築基準法上の確認で気をつけなければならないのは、既存の建物を事業所として使う場合です。
中には新しく建物を建てる方もいらっしゃるかもしれませんが、多くの場合は既存の建物を借りて事業所にするのではないでしょうか.
建物を新築する場合であれば、基本的に建築士などの専門家が設計から必要な申請まですべて対応するので
あまり不安に思わず専門家へお任せしましょう。
一方、既存の建物を使用する場合は、主に不動産の仲介業者や管理会社等とのやりとりになり
建築基準法の、特に障害福祉サービスに関わる部分については専門的な知識が無いことがほとんどです。
その場合、自治体の建築指導課などへ直接確認する必要があります。
確認と言っても何をどう確認すればいいのか…と困ってしまうかもしれませんが、
・どこで開業するのか(住所)
・既存の建物である旨
・建物の現在の用途(建築基準法上)
・何の障害福祉サービスをやろうとしているか
・事業所にする建物(部屋)の面積
・テナントが複数あるビルの場合、他に障害福祉や介護の事業所はないか
このようなことを事前にまとめ、事業所予定物件の平面図を見せられるように準備しておくと良いでしょう。
ポイントは「用途」
建築基準法上の確認において特に重要なのは、先述の「用途」です。
既存の建物を使用するケースで、変更部分の床面積の合計が200㎡を超える場合は用途変更の確認申請が必要になります。
用途変更の確認申請とは簡単に言うと、建物の用途を変更する際に建築基準法に基づいて自治体などの建築確認機関に申請し、適切な手続きを経ることです。
先述のように、建築基準法では用途に応じた規制があります。
そのため、例えば住宅を店舗や飲食店に改装したり、事務所を障害福祉サービス事業所に変えたりする場合には
変更が大きいケースに限って、変更後の用途の基準を守れているのか確認を受けなければならないということです。
用途変更の確認申請は手続きが大掛かりになり、専門家に任せないと難しく時間もかかります。
事業所にする物件探しの際には、このことを念頭に置いてご検討いただくと良いかと思います。
また、変更部分の床面積の合計が200㎡以下で、用途変更の確認申請がいらない場合であっても
建築基準法やその関係規定は守る必要がある点にご注意下さい。
注意点
・建築基準法上の確認は、賃貸する場合は物件の契約前に、新築なら着工前に行いましょう。
契約してしまってから問題が見つかり、その物件では障害福祉サービスができない可能性があるためです。
・建築基準法と関連して、建築物バリアフリー条例についても注意が必要です。
バリアフリー条例とは、高齢者や障害がある方など、すべての人が安全かつ快適に利用できるように
建物や施設、公共の場所などをバリアフリー化するための基準やガイドラインを定めた自治体の条例です。
障害福祉サービスはこの条例でバリアフリー化の義務付け対象になっていることが多いため、建築基準法上の確認の際に
指導を受けることがあります。
・その他、自治体独自の条例によって様々な規制がされていることもあるため、必ず専門家や建築指導課の担当へ確認しましょう。
さいごに
障害福祉サービスを開業するために、建築基準法上の確認の重要性や具体的方法についてご理解いただけましたでしょうか。
必要に応じて自治体や専門家への相談していただき、確認や手続きをしっかり行うことで
利用者が安心して利用できる事業所づくりを進めましょう。