【障害福祉サービス事業者向け】重要事項説明書の基本と押さえるべきポイント

はじめに

障害福祉サービスは、事業者と利用者の間で契約が結ばれることでサービスの提供がスタートします。

その契約を結ぶ際に事業者が用意するべき書類は次の3つです。

・契約書

・重要事項説明書

・個人情報使用の同意書

 

今回はこのうち、重要事項説明書について作成方法や注意点を解説します。

 

なぜ作成が必要?

 

そもそも重要事項説明書などの作成はなぜ必須なのでしょうか。

その根拠は社会福祉法の第77条にあります。

 

(利用契約の成立時の書面の交付)
第七十七条 社会福祉事業の経営者は、福祉サービスを利用するための契約(厚生労働省令で定めるものを除く。)が成立したときは、その利用者に対し、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。

一当該社会福祉事業の経営者の名称及び主たる事務所の所在地
二当該社会福祉事業の経営者が提供する福祉サービスの内容
三当該福祉サービスの提供につき利用者が支払うべき額に関する事項
四その他厚生労働省令で定める事項

 

2 社会福祉事業の経営者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令の定めるところにより、当該利用者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該社会福祉事業の経営者は、当該書面を交付したものとみなす。

社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)

 

ここでいう社会福祉事業とは、介護保険法や児童福祉法、障害者総合支援法を根拠としている事業のことですので

障害福祉サービスの指定を受けた事業者も当てはまります。

 

そして1項に挙げられている一から四の内容を記載した書面が、

契約書や重要事項説明書等のことを指します。

 

なお、2項にあるとおり書面ではなく電磁的記録方法(=メールやチャットツール等)で利用者へデータにて送付することも認められています。

 

また障害福祉サービスの運営基準にも、重要事項の説明と利用者からの同意が必要なことが明記されています。

例えば居宅介護の場合は以下の条文があります。

 

(内容及び手続の説明及び同意)
第九条 指定居宅介護事業者は、支給決定障害者等が指定居宅介護の利用の申込みを行ったときは、当該利用申込者に係る障害の特性に応じた適切な配慮をしつつ、当該利用申込者に対し、第三十一条に規定する運営規程の概要、従業者の勤務体制、その他の利用申込者のサービスの選択に資すると認められる重要事項を記した文書を交付して説明を行い、当該指定居宅介護の提供の開始について当該利用申込者の同意を得なければならない。

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成十八年厚生労働省令第百七十一号

 

契約書との違い

重要事項説明書と契約書は見た目こそ違えど、なんだか似た書類のようで混乱する方も多いかもしれません。

ですが、目的や内容の詳しさに違いがあります。以下にまとめました。

 

作成する方法は?

 

契約書のひな形を公開している自治体もあるので、それを参考に作成するのをおすすめいたします。

決まった形式は無いので一から自分で作っても良いですが、後述するように障害者総合支援法や民法などのルールに沿って適切な内容にする必要があるため、あまり現実的ではないかもしれません。

 

参考:東京都障害者サービス情報 書式ライブラリー

※URLは変更される場合があります。

 

注意点

・ひな形には公開している自治体名が記載されている場合があります。

 事業所所在地と違う自治体のものを使用する際はご注意下さい。

 

・ひな形はあくまでもひな形です。

 支払いのタイミングや支払い方法などは特に注意していただき、実態と相違しないように記載して下さい。

 

・自治体によっては新規の指定申請時の添付書類として契約書等を求めている場合があります。

 審査担当者から内容の修正指示があった場合は従って下さい。

 

 

どんな内容が必要?

記載すべき主な内容は以下のとおりです。

(1)事業者の概要

  障害福祉事業所を運営する法人の情報(法人名、代表者名、設立日など)を記載します。

 

(2)事業所の概要

  サービスを提供する障害福祉事業所の情報(事業所名、サービス名、連絡先、事業の目的・方針など)を記載します。

 営業時間や実施地域などは運営規程と内容を揃えましょう。

 

(3)職員体制

  重要事項説明書を作成した時点の職員体制を記載します。

 

(4)主たる対象者

  主な対象者を限定している場合は記載します。

 

(5)サービスの内容

  提供するサービスを具体的に記載します。

 

(6)利用料金

  最低限必要な内容は次のとおりです。

  ・利用者は、区市町村が決定した利用者負担上限額に応じた金額を事業者へ支払う旨

 ・基本料金

 ・加算(取得している加算のみ)

 ・その他実費(例:実費交通費、記録書類等のコピー代など)

 ・支払い方法、期日(口座振込の場合、銀行口座の情報など)

 

(7)サービスの利用開始と終了

  サービスの利用を開始するための手順や利用者から、または事業者から契約を終了・解除する際のルールを記載します

 

(8)緊急時の対応方法

  サービス提供中に利用者の容態に急変があった場合の緊急連絡先(主治医やご家族)を記載します

  重要事項説明書の説明時には空欄にしておき、利用者やご家族に確認して書き込みましょう

 

(9)事故発生時の対応方法

  サービス提供中に事故が発生した場合に、都道府県や市区町村、ご家族等へ連絡する旨を記載します

  利用者へ賠償が必要な場合のために損害賠償保険に加入している旨、および損害賠償を速やかに行う旨も記載しましょう

  なお、自治体によっては新規指定申請の際に損害賠償保険の加入書類を確認しないことがあります。

  ただ運営基準上、「賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない。」となっていますので、実質的には損害賠償保険への加入は義務だと言えます。

 

(10)苦情・相談窓口

  事業所、自治体、国保連等の苦情相談窓口の連絡先を記載します

  自治体によりますが、通常の事業の実施地域の市区町村の連絡先をすべて記載するように指導されることがあります。

  各自治体の障害福祉課か、専用の苦情相談窓口(障害福祉に関するもの)があればそれを記載しましょう。

 

(11)第三者評価

  第三者評価は任意なので、必ずしも受けなくて構いません。

  受けていない場合でも項目は削除せず、受けていない旨を記載しましょう。

 

(12)虐待防止

  すべての障害福祉サービスで、虐待防止対策の実施が義務付けられています。

  虐待防止の責任者、研修や委員会の実施や指針の作成などについて記載しましょう。

  運営(実地)指導でもよく確認される項目です。

 

(13)説明確認欄

  事業所が説明を行ったこと、利用者やご家族等の代理人が説明を受けたことの確認欄を設けます

 

作成時のポイント

 

① 重要事項説明書の内容は、必ず契約書や運営規程と整合性がとれているようにしましょう。

 例えば、契約の解除に関して「利用者が◯日前までに事業者へ通知する」という文言の日数が契約書と重要事項説明書で違うなどの矛盾がよく見られます。

 

② 利用者の障害特性にあわせて、ルビ版、拡大文字版、点字版、録音版などを作成しておくのがベターです。

 

契約後に変更する場合は?

 

契約後、サービス提供等に関して何らかの変更があった場合、重要事項説明書の取り扱いはどうすればいいのでしょうか。

変更のケースごとに説明します。

 

ケース1:サービスを提供する中で利用日や回数、内容などの変更が必要になったり、市区町村などからの支給決定内容が変わった場合

ほとんどの場合、個別支援計画や居宅介護計画等の内容も変更となりますので、まずはそれらの変更について利用者やご家族に説明して同意を得る必要があります。

同意は口頭でも構いません。ただし、同意を得た事実を記録に残すことが重要です。

 

また、基本的には個別支援計画や居宅介護計画等の内容を変更しておけば、重要事項説明書自体を変更する必要はないと考えます。

重要事項説明書には必ずしも個別のサービス提供内容まで書かれているわけではないためです。

 

ケース2:利用料の支払い方法が変わった場合など、重要事項説明書に書かれた内容に変更が及ぶ場合

基本的には、変更後の重要事項説明書によって利用者やご家族等へ改めて説明し、同意を得る必要があります。

変更内容のみ記載した書類を作成し、同意欄を設けて変更同意書としても良いでしょう。

 

ケース3:報酬改定があった場合

改定後の基本料金や加算等を説明し改めて利用者やご家族から同意を得る必要があります。

ケース2と同じく、変更内容のみ記載した書類を作成し、同意欄を設けて変更同意書としても良いでしょう

 

 

押印や署名は必要?

 

重要事項説明書や契約書への押印や署名は必ずしも必要ではありません。

押印についてのQ&A(令和2年6月19日内閣府・法務省・経済産業省)

によると、

私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、
書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除
き、必要な要件とはされていない。

となっています。

また、もしトラブルが起こって裁判で争うことになった場合でも

押印があるからといって必ずしもその書類が正しく作られ、間違いや改ざんがなく信用できる状態だと言い切れるわけではないとされています。

 

ただ、押印や署名が無いことで利用者やご家族へ不安を感じさせてしまう可能性もあるため、個人的には押印や署名はもらっておくことが望ましいと考えます。

 

さいごに

今回は、障害福祉事業者が利用者との契約時に必要な書類のうち、重要事項説明書について解説しました。

 

障害福祉サービスの契約はあくまでも事業者と利用者の間で直接結ばれるものです。

そのため行政が、重要事項説明書や契約書の内容が妥当かどうか口を出すようなことは基本的に有りませんが、重要事項説明書や契約書を作成すること自体は社会福祉法や各サービスの運営基準上必須となっていますので、運営(実地)指導の際には内容を確認されます。

 

適切に契約を結ぶために本記事が参考になれば幸いです。

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