障害者虐待防止法とは?事業者が知っておきたい基礎を徹底解説

はじめに

障害者虐待防止法(正式名称:障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)は、障害者への虐待を防止し、早期発見・対応を行い、適切な支援を提供することで障害者の権利を守ることを目的としています。

 

今回はこの法律について、目的や障害福祉事業者に義務付けられている内容、罰則があるか等を解説します。

 

障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成二十三年法律第七十九号)

 

法律の概要

この法律では、障害者に対する虐待を大きく次の3つに分類しています。

 

① 障害者を養護する家族などによる虐待

② 障害者施設や障害福祉サービス事業所の職員等による虐待

③ 障害者を雇用する会社の雇用主等による虐待

 

障害者への虐待というと、障害者施設等での虐待がニュースなどで取り上げられることが多いイメージですが、それだけでなく家庭内や職場も含めて法律的な枠組みを決めているのが特徴と言えます。

 

また、具体的にどのような行為が障害者虐待にあたるのかについても次の5つに分類しています。

  • 身体的虐待

殴る、蹴る、つねるといった暴行や、正当な理由がない場合の身体拘束など

  • 性的虐待

性交の強要や性器へ触れる、裸にする等のほか、わいせつな映像を見せることなど

  • 心理的虐待

暴言や侮辱、無視、嫌がらせなど、精神的に苦痛を与えるような行為など

  • 放置・ネグレクト

障害者にとって必要な身の回りのお世話(食事や排泄、入浴、洗濯等)をしないことなど

  • 経済的虐待

障害者本人の同意なしに財産を処分したり、不当に財産上の利益を得ることなど

 

何を定めている?

この法律では、誰であっても障害者への虐待をしてはならないことを前提とした上で、虐待への対応について次のようなことを定めています。

 

  • 国や自治体等に対する努力義務
  • 虐待防止のための措置に関する義務
  • 虐待を発見した際に通報する義務

 

それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

国や自治体等に対する努力義務

 国や自治体には、虐待の防止や早期発見、虐待を受けた障害者の保護などのために体制を整備したり、関係する機関と連携すること等が求められています。

 

虐待防止のための措置に関する義務

 障害者施設や障害者を雇用する使用者は、虐待を防止するために次のような対応が義務付けられています。

 

 ・従業員等への虐待防止に関する研修

 ・障害者やその家族からの苦情を処理する体制の整備

 ・その他、障害者虐待の防止等のための措置

 

※障害者が通う学校や保育所等、医療機関に対しても同様の義務が明記されています。

 

虐待を発見した際に通報する義務

 障害者の家族等、障害者施設、障害者を雇用する使用者が障害者への虐待を発見した場合は、市町村や都道府県へ通報しなければなりません。

 また通報を受けた市町村や都道府県は、適切に調査を行い、必要に応じて被害者の保護や加害者への指導を行う等の対応が必要とされています。

 

運営基準との関係性は?

令和4年度から、障害福祉事業者に対して虐待防止や身体拘束廃止のための取り組みが義務化されていますが、これは運営基準が根拠となっています。

下記は居宅介護の条文ですが、他の各サービスでも同じように規定されています。

 

(虐待の防止)
第四十条の二 指定居宅介護事業者は、虐待の発生又はその再発を防止するため、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。

一 当該指定居宅介護事業所における虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。

二 当該指定居宅介護事業所において、従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること。

三 前二号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと。

 

(身体拘束等の禁止)
第三十五条の二 指定居宅介護事業者は、指定居宅介護の提供に当たっては、利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体拘束等」という。)を行ってはならない。

2 指定居宅介護事業者は、やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならない。

3 指定居宅介護事業者は、身体拘束等の適正化を図るため、次に掲げる措置を講じなければならない。
 一 身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。
 二 身体拘束等の適正化のための指針を整備すること。
 三 従業者に対し、身体拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること。

 

 

引用元:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成十八年厚生労働省令第百七十一号)

障害者虐待防止法は、社会全体での虐待防止の基本枠組みを規定し、行政による対応や通報義務を強調しています。

一方、運営基準は、事業所レベルでの具体的な取り組みを規定し、虐待の未然防止と従業員への教育を重視しており、それぞれの役割を補完する関係性だとイメージしていただくと良いと思います。

 

罰則はある?

結論から言うと、障害者虐待防止法では罰則の規定はありません。

この法律の目的は、先述のとおり障害者への虐待を防止し、早期発見・対応を行い、適切な支援を提供することで障害者の権利を守ることです。

そのため虐待の通報義務や対応方法などが規定されていますが、虐待行為自体を直接的に処罰する条文はありません。

 

ですが、もし虐待行為が以下のような犯罪に該当する場合は、刑法など他の法律で処罰を受ける可能性があります。

・暴行、傷害(刑法第208条、第204条)

・監禁 (刑法 第220条)

・強制わいせつ(刑法 第176条)

 など

参考:刑法(明治四十年法律第四十五号)

 

また罰則ではありませんが、運営基準に定められている虐待防止や身体拘束廃止のための取り組みができていない場合は、運営基準違反として報酬の減算というペナルティがある点にもご注意下さい。

 

具体的には以下のとおりです。

 

◯虐待防止措置未実施減算

 すべての障害福祉サービスについて、虐待防止の取り組みができていない場合は所定単位数の1%を減算

 

◯身体拘束廃止未実施減算

 身体拘束廃止の取り組みができていない場合、障害福祉サービスの種類に応じて次のとおり減算

 施設・居住系サービス:所定単位数の10%を減算

  ※障害者支援施設、療養介護、障害児入所施設、共同生活援助、宿泊型自立訓練

 訪問・通所系サービス:所定単位数の1%を減算

  ※居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援、生活介護、短期入所、自立訓練(宿泊型自立訓練以外)、就労選択支援、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型、児童発達支援、放課後等デイサービス、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援(障害者支援施設が行う場合以外)

 

参考:令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容

 

さいごに

いかがでしたでしょうか。

障害福祉事業者にとって虐待防止の取り組みは、利用者の安全を守り、信頼を築く上で欠かせない責務です。

障害者虐待防止法や運営基準を正しく理解し、日々の業務を通じて、利用者一人ひとりの権利を守る努力を続けていただけると幸いです。

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