はじめに
令和6年11月から、新しく「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が施行されました。
特定受託事業者とは、いわゆるフリーランスのことを指します。
近年、フリーランスという働き方が社会で普及してきた一方で、フリーランスと取引先の間で「報酬が支払われない」「ハラスメント」といったトラブルや問題も生じています。
そこで、取引上弱い立場に置かれやすいフリーランスが安心して働ける環境を整備するためにこの法律(以下では「フリーランス法」とします。)が作られました。
つまり「フリーランスを保護」することが主な目的の法律なので、
事業者はフリーランスに対して業務を委託する際、適切な取引を行うために様々な義務が課せられています。
障害者グループホーム(共同生活援助)で夜間支援員を業務委託で配置している事業者はこの法律の対象になるため、ぜひ本記事を参考にして適切にご対応いただければと思います。
参考:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
ここに注意!
フリーランス法が適用されるのは、あくまでも「業務委託」の夜間支援員の場合です。
労働者として雇っている(雇用契約を結んでいる)夜間支援員はこの法律の対象外で、これまでどおり労働基準法や関係法令が適用されますのでご注意ください。
義務の内容
それぞれ詳しい内容を確認しましょう。
① 書面等で取引条件を明確にする
夜間支援員に対して取引の条件を示す際、口頭での明示はNGです。
認められ方法は書面または電磁的方法(メール、SMS、チャットツール等)のみです。(どちらにするかは事業者が決めて構いません)
なおメール等で明示した場合でも、夜間支援員から求められた場合は書面を渡す必要があります。
ただし、夜間支援員の保護に支障が生じない場合は、必ずしも書面を渡す必要はありません。
書面やメール等で明示すべき取引条件の内容は次のとおりです。
決まった様式はありませんので、状況に応じて適切な内容でご作成ください。
上記のような取引条件を文字で残し、お互いに言った、言わないのトラブルを防ぐことが重要です。
② 報酬の支払い期日を決めて、期限内に支払う
報酬の支払い期日は、業務を行った日から数えて60日以内のできる限り短い期間内で定め、最初に決めた期日までに事業者が夜間支援員へ支払う必要があります。
また、期日は具体的な日付を特定できるように決めなければなりません。
以下の良い例・悪い例をご参考ください。
なお、毎月◯日締切・翌月◯日支払いといった月単位の締切にする場合も
月のはじめに業務を行った日の分の報酬が60日以内に支払われるようにする必要があります。
厚生労働省パンフレット:ここからはじめるフリーランス・事業者間 取引適正化等法 より引用
③ 募集内容を正確に表示する
広告などによって夜間支援員を募集する際、虚偽の表示や、誤解を生じさせる表示をしてはなりません。
また、募集情報を正確かつ最新の内容に保つ必要があります。
例えば報酬額を実際よりも高く記載したり、実際に業務を委託する法人ではない法人の名前を記載することなどは、虚偽の表示にあたりNGです。
業務委託と労働者の募集が混同されるような書き方も避けましょう。
なお、応募後に双方が合意した上で、募集した際の条件と違う条件で契約を結ぶことは問題ありません。
④ 育児や介護等と業務の両立に対して配慮する
業務委託の契約期間が6か月以上の場合は、夜間支援員からの申し出に応じて、育児や介護などと業務を両立できるように必要な配慮をしなければなりません。
また、契約期間が6か月未満であっても、配慮するよう努めることとされています。
なお、育児や介護等への配慮をしたことを理由に、相当な額以上に報酬を減額したりすることは望ましくないためご注意ください。
⑤ ハラスメント対策の仕組みを整える
労働者と同様に、業務委託の夜間支援員に対しても、セクシャルハラスメントやパワーハラスメント等
様々なハラスメントの相談対応のための体制整備などが必要です。
体制整備の例は次のとおりです。
⑥ 中途解除の事前通知と理由を説明する
業務委託の契約期間が6か月以上の場合で、その業務委託契約を解除する場合や更新しない場合は、少なくとも30日前までに書面・FAX・メール等で夜間支援員へ予告をしなければなりません。
また、予告された日から契約が満了するまでの間に、夜間支援員が事業者に対して解除の理由請求した場合、事業者は理由を開示しなければなりません。
なお理由の開示も、書面・FAX・メール等のいずれかの方法で行う必要があります。
※ただし、次の例外に当てはまる場合は開示不要です
・第三者の利益を害するおそれがある場合
・他の法令に違反することになる場合
事業者の禁止行為
業務委託の契約期間が1ヶ月以上の場合、次の7つの行為が禁止されています。
夜間支援員の場合は物品や成果物を納品することはない業務内容のため、基本的に①・③・④に関しては気にされなくて良いかと思います。
違反した場合
フリーランス法では、法律に違反すると思われる行為があった場合にフリーランスが厚生労働省などの行政機関へ申し出ることができるとされています。
申し出を受けた行政機関は、内容に応じて事業者へ報告を求めたり、立入検査を行い、指導や助言、勧告を行うことができます。
勧告に従わない場合には命令・公表を行うことができ、もし命令に違反するような場合は50万円以下の罰金があります。
事業者の皆さまを脅す意図は無いのですが、これまで業務委託の夜間支援員との信頼関係を前提に、悪い言い方をすれば「なあなあに」やってきたことがあるとすれば、それが法律に基づいて罰せられる可能性もあることをご留意いただけると幸いです。
さいごに
本記事のポイントは以下のとおりです。
・令和6年11月施行の「フリーランス法」は、業務委託を受けるフリーランスの取引環境を改善し、保護することを目的とした法律
・フリーランス法では、取引条件の書面提示や報酬の適正な支払い、ハラスメント対策の実施など、事業者に対して具体的な義務が課されている
・夜間支援員を業務委託で雇用する障害者グループホーム事業者はこの法律の対象となるため、適切な対応が必要
本記事が、従業員と事業者の信頼関係を築き、安心して働ける環境を作るための一助となれば幸いです。