はじめに
障害福祉サービスを開業するためには、自治体へ申請して指定を受けることが必要ですが、
「事業所予定物件について消防法上の確認をするように」と役所の担当から言われたり、申請の手引に書かれているのを見たことはないでしょうか。
障害福祉サービスをやりたいのに、いきなり消防法というワードが出てきて戸惑った方もいるかもしれません。
障害福祉サービス事業者は、サービスの利用者が障がいを持った方である以上、障害者総合支援法や指定基準を守るだけでなく
より安全面や防災面に配慮するための基準が設けられた、消防法や建築基準法などの関係法令を守って事業を運営する必要があります。
本記事では、消防法において障害福祉サービスがどのように位置づけられているのか、また事業者は何をしなければならないのかを解説します。
※建築基準法についてお知りになりたい方はこちらの記事をご参考ください
消防法上の位置づけ
まず理解しておきたいのが、消防法における防火対象物という言葉の意味です。
これは、火災が発生した場合に火災の拡大を防ぎ、避難の安全を確保するために防火上の規制が適用される建物や施設のことを指します。
具体的には、建物の用途や規模によって分類され、その性質に応じた消防設備や管理が義務付けられます。
① 防火対象物は大きく「特定用途」「非特定用途」の2つに分類される
防火対象物は、用途に応じて大きく2つに分類されます。
特定用途防火対象物
収容できる人数が多く、不特定多数の人が出入りする建物がこれにあたります。
例:劇場、百貨店、ホテルなど
このような建物では、火災が起こった時に不特定多数の人が迅速に避難する必要があるため、厳しい規制があります。
非特定用途防火対象物
主に特定の人が利用する建物がこれにあたります。
例:学校、図書館、共同住宅など
特定の利用者や従業員が出入りするため、規制は特定用途ほど厳しくありませんが、必要な設備や管理が求められます。
② 障害福祉サービス事業所は多くの場合「特定用途」に該当する
障害福祉サービス事業所は、事業所の従業員や利用者、つまり特定の人しか出入りしないので、非特定用途防火対象物ではないのか?と思われるかもしれません。
ですが、そのサービスの特性上、火災が起こった際に利用者が迅速に避難することが難しいケースが多いです。
そのため火災の早期発見と避難支援が重視されており、特定用途防火対象物に分類されています。
③ 障害支援区分が高い利用者の割合によって区分される
防火対象物の具体的な分類は、消防法施行令の別表第1で確認することができます。
この中で、障害福祉サービス事業所が該当する部分を抜粋してまとめました。
この表によると、障害福祉サービス事業所は「避難が困難な障害者等」を主として入所させているかどうかにより、(ロ)・(ハ)に分類されていることがわかります。
「避難が困難な障害者等を主として入所させるもの」とは、
障害支援区分が4以上の利用者がおおむね8割を超えている事業所とされています。
例えば、利用者10名の共同生活援助で、障害支援区分3以下が1名、区分4以上が9名だった場合、(ロ)に該当します。
この(ロ)・(ハ)の分類は、後述する建物に必要な設備や防火管理者の資格区分を判断する際に重要なポイントとなります。
事業者がやるべき具体的な対応は?
① 必要な設備を整える
主に必要となる設備は次のものです。
ただし、事業所の床面積や収容人数によって基準が細かく決められているため、必ず管轄の消防署へご確認いただき指示を仰いでください。
・消火器
・自動火災報知設備
・屋内消火栓設備
・スプリンクラー設備
・誘導灯
② 防火管理者を選任する
防火管理者とは、多くの人が利用する建物(防火対象物)において、火災による被害を防ぐための安全対策を計画・実施し、防火に関する業務を担当する責任者のことです。
誰でも防火管理者になれるというわけではなく、消防署で「防火管理講習」を受けた有資格者でなければなれません。
また防火管理者は、建物の規模や用途によって選任が必要かどうかが判断されます。
障害福祉サービス事業所における基準は次のとおりです。
なお、防火管理者の資格は甲種・乙種の2つ区分があります。
上記表内の甲種防火対象物に該当する事業所で選任される場合は甲種の資格を、乙種防火対象物に該当する事業所で選任される場合は乙種の資格が必要という関係性です。
注意点
防火管理者の選任を判断する基準において、収容人数は利用者の数だけではありません。
消防法施行規則の第1条の3で収容人数の数え方が示されていますが、従業員・利用者・そして利用者の保護者(家族等)も合算する必要があります。
利用者の保護者については、利用申込や相談で事業所に来た場合を想定して人数を考えるとよいでしょう。
③ 消防計画を作成する
消防計画は、火災や災害が発生した際に被害を最小限に抑えるため、建物内での避難方法や消火活動、非常時の対応などを定めた計画書です。
消防法に基づいて防火管理者が中心となって作成し、管轄の消防署に提出する必要があります。
事業の規模などにより異なりますが、計画書へ盛り込む主な内容は下記のとおりです。
なお、自治体によっては消防計画のひな形を公開していることもあるので活用してみてください。
参考:
東京消防庁|消防計画、全体についての消防計画及び防火管理業務計画の作成基準フロー
④ 定期的な訓練を行う
消防法の第8条、36条において、防火管理者の選任が必要な建物・事業所を管理する事業者等は、防火管理者に訓練を実施させる必要があると定められています。
これは、建物や施設内で火災や災害が発生した際に、初期消火や避難誘導、通報活動を適切に行えるようにするための訓練です。
具体的には次の訓練を行う必要があります。
それぞれ実施する頻度も決められていますのであわせてご確認ください。
注意点
訓練を行うときは、事前に管轄の消防署へ届出が必要です。
また、訓練を行った場合は実施結果を記録し、訓練を行った日から3年間保存することが義務付けられています。
さいごに
障害福祉サービス事業者として、事業所の安全性を確保するためには消防法に基づく適切な対応が不可欠です。
利用者や職員の命を守り、事業の継続的な運営を継続するため、確実な対応を進めていきましょう。