はじめに
令和6年4月1日以降、障害福祉事業所に対して感染症対策の強化と、
感染症・非常災害発生時の業務継続に向けた取り組みの強化が義務化されます。
これらは令和5年3月31日までは経過措置期間(=努力義務)でしたが、
令和6年4月1日からは全ての事業者が取り組まなければなりません。
では具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか。
また、取り組みを怠った場合のペナルティ等はあるのでしょうか。
以下で解説していきたいと思います。
必要な取り組みは大きく2つ
1. 感染症対策の強化
2. 感染症・非常災害発生時の業務継続に向けた取組の強化
1. 感染症対策の強化
次の4つの取り組みが必要です。
①感染症対策委員会の開催
②感染症対策に関する指針の整備と周知
③感染症対策に関する研修の実施
④感染症対策に関する訓練(シミュレーション)の実施
それぞれ順番に詳しく見ていきましょう。
①感染症対策委員会の開催
開催頻度は?
委員会は定期的な開催が原則ですが、感染症の流行時期等を考慮し
必要に応じて臨時開催することとされています。
※定期委員会の場合、提供するサービスによって目安が異なり、
施設系など利用者や職員が事業所内に集まるサービスは
より高頻度で開催が必要とされている傾向があります。
【概ね6ヶ月以上開催が必要なサービス】
◯訪問系サービス
(居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援)
◯相談系サービス
(計画相談支援、地域移行支援、地域定着支援、障害児相談支援)
◯就労定着支援
◯自立生活援助
【概ね3ヶ月以上開催が必要なサービス】
◯上記以外のサービス全て
検討内容は?
提供しているサービスによって多少違いがあります。
・概ね6ヶ月以上開催が必要なサービスの場合
感染症の予防及びまん延の防止のための対策を検討
・概ね3ヶ月以上開催が必要なサービスの場合
感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための対策を検討
施設系のサービスでは食事を提供している事業所があるため、
食中毒についても対策の検討が必要です。
開催時の注意点は?
開催にあたっては事業所内で行う他、ビデオ通話等を活用しても良いですが、
必ず毎回議事録を作成して、検討内容と結果を記録します。
また検討結果は必ず全従業者に周知しましょう。
記録と従業者への周知が超重要です。
委員会のメンバーは?
管理者や現場責任者、現場スタッフ等、幅広い職種で構成することが望ましいです。
それぞれの役割分担も明確にして指針に記載しましょう。(詳細は後述)
またメンバーの中から委員会の運営責任者を決めてください。
なお、他のサービス事業者と連携して開催することも認められています。
②感染症対策に関する指針の整備と周知
指針とは簡単に言うと、物事を進める際に取るべき方法を示すものです。
感染症対策を進めるにあたって、事業所がどんな方法を取るのかを明らかにすることが義務付けられるということですね。
感染症対策に関する指針においては、平常時の対策と発生時の対応を
規定することとされています。
また作成した指針は全従業員に周知が必要です。
もし調理や清掃の業務を委託している場合は、委託先に対しても指針の周知をしてください。
※平常時の対策例
・ 事業所内の衛生管理(環境の整備等)
・ 支援の際の感染対策(手洗い等の標準的な予防策)
※発生時の対応例
・ 発生状況の把握
・ 感染拡大の防止
・ 医療機関や保健所、県・市町村等関係機関との連携報告
なお、厚労省のHPで指針作成の手引やひな形が公開されていますので
ぜひ下記のページを参考にしてみてください。
【参考】
③感染症対策に関する研修の実施
研修内容は?
従業者に対して、感染対策の基礎的内容など、適切な知識の普及・啓発と
事業所の指針の周知徹底を目的とした研修を定期的に開催することが必要です。
とはいえイチから研修内容を決めて実施して・・・となるとかなりの労力が必要ですよね。
忙しい業務の合間を縫って研修資料を作るのも現実的に難しいと思います。
厚労省のHPに感染症対策の研修動画と資料が掲載されていますので、
参考にしてみてください。
【参考】
障害者支援施設及び障害福祉サービス事業所等職員のための感染症対策の研修会の動画及び実地研修の概要
開催頻度は?
委員会と同じく、提供しているサービスによって目安が異なります。
【年1回以上開催が必要なサービス】
◯訪問系サービス
(居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援)
◯相談系サービス
(計画相談支援、地域移行支援、地域定着支援、障害児相談支援)
◯就労定着支援
◯自立生活援助
【年2回以上開催が必要なサービス】
◯上記以外のサービス全て
開催時の注意点は?
全従業者に対して研修を実施し、実施した際は必ず記録を残しましょう。
特に新規に採用した職員には必ず実施が必要です。
記録は以下のようなことを書くのが望ましいです。
・研修テーマ
・開催日時
・開催場所
・参加者
・不参加者と、不参加への対応(別日で開催等)
・研修内容
・参加者からの意見や感想
④感染症対策に関する訓練(シミュレーション)の実施
訓練内容は?
感染症の発生時に迅速に行動できるよう、指針や研修内容に沿って
支援の演習などをすることとされています。
その際、発生時の事業所内における役割分担の確認も行いましょう。
開催頻度は?
委員会等と同じく、提供しているサービスによって目安が異なります。
【年1回以上開催が必要なサービス】
◯訪問系サービス
(居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援)
◯相談系サービス
(計画相談支援、地域移行支援、地域定着支援、障害児相談支援)
◯就労定着支援
◯自立生活援助
【年2回以上開催が必要なサービス】
◯上記以外のサービス全て
開催時の注意点は?
全従業者に対して訓練を実施し、実施した際は必ず記録を残しましょう。
特に新規に採用した職員には必ず実施が必要です。
記録は以下のようなことを書くのが望ましいです。
・訓練テーマ
・開催日時
・開催場所
・参加者
・不参加者と、不参加への対応(別日で開催等)
・訓練内容
・参加者からの意見や感想
※訓練は机上と実地を組み合わせながら実施することが望ましいとされています。
2. 感染症・非常災害発生時の業務継続に向けた取組の強化
大きく次の4つの取り組みが必要です。
①業務継続計画(いわゆるBCP計画)の策定と周知
②業務継続計画に関する必要な研修の実施
③業務継続計画に関する必要な訓練(シミュレーション)の実施
④業務継続計画の定期的な見直し
それぞれ順番に詳しく見ていきましょう。
①業務継続計画(BCP計画)の策定と周知
業務継続計画(BCP計画※)とは?
新型コロナウイルス等感染症や大地震などの災害が発生した場合であっても業務を中断させないように準備するとともに、
優先業務を実施するため、あらかじめ方針・体制・手順等を検討して作成する計画のことです。
障害福祉事業所では日常生活上の⽀援が必要な障害者の方がたくさん利用しています。
もし感染症や災害によってサービス提供ができなくなると、
利用者の方の生命・身体に著しい影響を及ぼす恐れがあるため、
そのような事態が発生しても最低限のサービス提供が維持できるよう
あらかじめ計画を立てて研修や訓練を行うことが義務付けられました。
新型コロナウイルスや大規模な自然災害を受けて、国の危機意識もかなり高まっているということですね。
※BCP: Business Continuity Plan の略称
作成時の注意点は?
業務継続計画(BCP計画)は、事業所の規模に関係なく次の2つが必要です。
これらは一体的に作成してもOKです。
①感染症に関わる業務継続計画
②災害に関わる業務継続計画
また作成した計画は研修を通じて全従業者に周知が必要です。
なお、計画書のひな形とガイドラインが厚労省HPに掲載されていますので、
ぜひ下記のページを参考にしてみてください。
【参考】
②業務継続計画に関する必要な研修の実施
研修内容は?
業務継続計画の具体的内容を全従業者に共有しましょう。
開催頻度は?
原則年1回以上開催が必要です。
ただし、障害者支援施設、障害児入所施設の場合は年2回以上開催することとされています。
開催時の注意点は?
全従業者に対して研修を実施し、実施した際は必ず記録を残しましょう。
記録は以下のようなことを書くのが望ましいです。
・研修テーマ
・開催日時
・開催場所
・参加者
・不参加者と、不参加への対応(別日で開催等)
・研修内容
・参加者からの意見や感想
なお、感染症の業務継続計画に関する研修は
前述の感染症対策の研修と一体的に実施することも認められています。
③業務継続計画に関する必要な訓練(シミュレーション)の実施
訓練内容は?
感染症や災害の発生時に迅速に行動できるよう、業務継続計画に沿って
支援の演習などをすることとされています。
その際、発生時の事業所内における役割分担の確認も行いましょう。
開催頻度は?
原則年1回以上開催が必要です。
ただし、障害者支援施設、障害児入所施設の場合は年2回以上開催することとされています。
開催時の注意点は?
全従業者に対して訓練を実施し、実施した際は必ず記録を残しましょう。
記録は以下のようなことを書くのが望ましいです。
・訓練テーマ
・開催日時
・開催場所
・参加者
・不参加者と、不参加への対応(別日で開催等)
・訓練内容
・参加者からの意見や感想
※訓練は机上と実地を組み合わせながら実施することが望ましいとされています。
なお、感染症の業務継続計画に関する訓練は、
前述の感染症対策の訓練と一体的に実施することも認められています。
④業務継続計画の定期的な見直し
研修や訓練で生じた課題等も踏まえて定期的に計画の見直しを行い、
必要に応じて変更を行うことが必要です。
取り組みを怠った場合のペナルティ等は?
障害福祉サービス等報酬改定検討チームの資料によると
令和6年度の報酬改定において、感染症もしくは災害の業務継続計画のうちいずれかが未策定の場合
基本報酬を減算する方向性が示されています。
具体的にどの程度の減算になるかは現時点(令和6年1月)ではまだ不明ですので
詳細は分かり次第追記します。
【参考】令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の基本的な方向性について(令和5年12月6日開催)
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001176056.pdf
また、今後自治体が行う実地指導等でより厳しくチェックされることが予想されます。
特に注意したい点としては、指針や業務継続計画の従業者への周知と
研修や訓練を行った場合の記録です。
せっかく作成した指針や業務継続計画が従業者へ周知できていなかったり
研修や訓練を行ったにも関わらず記録が無いとなると
行政側からは義務を果たせていないと判断されかねません。
必ず周知と記録をするようにしましょう。
また、特に業務継続計画は作成に時間がかかります。
というのも事業所周辺のハザードマップで災害の危険性を調査したり、
関係機関の連絡先を整理するなど一定の作業が必要なためです。
義務化が近づいてきていますので、とにかく内容は浅くでもいいので
一通りの計画は作成してしまうことをオススメします。
詳細な内容を詰めていく作業は、研修や定期的な見直しを通して行っていけば大丈夫です。
さいごに
ここまで解説してきましたが、最後にチェックリストとしてまとめました。
貴事業所ができていること、できていないことの確認にお役立てください。