はじめに
今回お話しするテーマは「福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金についてざっくり理解 その注意点」です。
この交付金は介護事業者さんからすれば「介護職員処遇改善支援補助金」にあたるものです。
介護事業者・福祉事業者さん向けに既存の処遇改善加算にさらにプラスする制度として、臨時的に交付金を支給するこの制度・・・気になりますよね。
ただ・・・正直、この制度のことを完璧に分かっている人はいないと思います。
コールセンターも、本当に繋がりません。
正直、私も完璧に理解しているか自信がありません。
が、社労士的な観点でこの交付金を見てみると、色々と感じることがありました!
よって、今回の記事ではまず
・ 社労士の私がこの臨時交付金につきどのように理解したのか
および
・臨時交付金制度をざっくり理解できるようにする
ということを目的にお話しいたします。
あわせて、この臨時の特例交付金について、社労士の観点で注意点についても言及いたします。
支給要件や申請までの流れについては補助者が別の動画を上げていますので、詳しくはそちらでご確認下さい。
⇒【新・処遇改善加算!】 福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金の 概要について分かりやすく解説【障害福祉】
今回お伝えしたいこと
- 社労士の上田が臨時交付金をどのように理解したか
- 臨時交付金制度をざっくり理解できるようにする
- 社労士観点での注意点
福祉 ・ 介護職員処遇改善臨時特例交付金の概要(上田見解)
この臨時交付金、私の見解では
「令和4年4月以降から介護事業所・福祉事業所で働く労働者のお給料を増やして今後も下げずに払い続けてね」という趣旨だと感じました。
どういうことかというと、
本音を言えばすでに処遇改善加算を算定している介護福祉事業者には2月時点で労働者の給料を昇給させてほしい
↓
だけど、この臨時交付金の発表のタイミング的に2月から賃金制度を変更して従業員に周知させることは厳しそう
↓
だから2月・3月も昇給したとみなして一時金で良いので労働者に還元してね!
・・・ということです。
なぜこのように考えるのか。理由は2つあります。
見解の理由①賃金の計算期間が会社によって異なるから
1つ目は賃金の計算期間です。
「賃金」と「給料」は同じ意味で考えて下さい。
お給料には計算期間があります。
例えば”末日締めの翌月20日払い”とかよく聞きますよね。
これは、毎月1回以上給料を支払わないといけないというルールがあるからです。
また、会社によっては”末日締めの当月20日払い”といった形もあります。
まだ働いていない分も払うのでちょっと違和感がある方もいらっしゃると思いますが、労働基準法ではなんら問題ありません。
そう考えると、臨時特例交付金のリーフレットに書いてある「2月支払い分」は会社によって計算方法が異なる可能性があるということですよね。
もし2月にお給料が払われた事実を以って「2月給与分」とすると、当月払いの事業者は間に合っても、前月末日締めにしている会社は2月の賃金UPが物理的に間に合いません。
実際にリーフレットのQ&Aの中にも「2月支払い分というのがどういう解釈か?」という質問がありますが、今までどうやって給料を支払っていたのか、その会社のルールに従って判断して下さい、という風に読み取れます。
見解の理由②就業規則を改定するためには時間が必要だから
理由の2つ目は、就業規則を改定するためには時間が必要だからです。
就業規則とは、会社と労働者の約束事が書かれた書類です。
就業規則は、労働者を常時10人以上雇っている会社は作成及び労働基準監督署に届け出さないといけません。
この就業規則の中に賃金の計算方法があり、会社で導入している手当の種類や金額がそこから確認できます。
賃金制度が充実している会社は、就業規則とは別に「賃金規程」というお給料の制度に特化した就業規則もあります。
そして、賃金制度を改定する場合には就業規則にその旨を記載しなくてはいけません。
つまり、臨時特例交付金を算定するためには「就業規則を改定する」 という作業が必要になるということです。
また、就業規則は作成すればそれで終わりではありません。
就業規則改定後やらなければならないこととして、下記のようなステップが必要です。
就業規則改定後やらなければならないこと
- その改定した内容を労働者全員へ周知する。
- 労働者全員がその制度変更を知っている状態にする。
- いつでも就業規則を読んで詳しく内容を確認できる状態にする。
- いついつから施工する、つまりこの日から制度を変更するということを全員に認識してもらう。その改定した内容を労働者全員へ周知する。
加えて、改定した就業規則を労基署に届け出すことで受付印が捺されて、改定に必要な手続きは終わります。
これらのことをやっていたら、2月中に急いで準備しても、 賃金計算期間である初日の3月1日から施行して、翌月4月に新賃金制度の下で計算した給料を払う・・・どうしてもこういったスケジュールになるんじゃないかと思います。
ゆえに、2月・3月分のお給料を昇給していたとみなして、一時金でもいいので支払って下さい!という表現なのだと思います。
臨時特例交付金を受ける際の3つの注意点
では、臨時特例交付金を受給するにあたって、社会保険労務士的な観点で3つの注意点をお話ししたいと思います!
注意点① 固定的賃金は簡単に下げられない
今回の交付金支給要件に「全体の3分の2以上を固定的賃金の昇給に充てること」とありますが、固定的賃金は下げることは一般的には難しいと言われています。
さらに、就業規則で定めたルールはその会社の全員共通の決まりとなりますので、就業規則未満の賃金にすることは出来ません。
賃金を下げるためには就業規則の変更が必要ですが、給料を上げる場合と違い、給料を下げるには合理的な理由があることが最低条件です。
ここら辺は話すと長くなるので省略しますが、つまり、臨時交付金を欲しいがために固定的賃金を増やすことは経営を持続する観点からはメリットもあるけどリスクにもなり得るということです。
また、固定的賃金が増えれば社会保険の変更手続きが必要になるケースがあります。
そうすれば、労働者の負担する保険料が増えます。
◆例)東京で働いている場合
例えば東京でひと月18万円で働く労働者が19万円になった場合、会社の保険料負担は大体ひと月1500円増加します。
さらに労働者には所得税や住民税の負担が増えますのでそこら辺も考慮して決めて下さい。
一時金や変動手当ならそれほど心配しなくてもいいのですが、固定的賃金を増やすことについてはご注意下さい。
POINT
固定賃金は毎月必ず支払うもので簡単に下げられない点につき注意
注意点②今後雇う人も昇給の対象となる観点があるか
2つ目の注意点は、これから雇う人たちも昇給の対象となる観点があるかです。
就業規則は会社と従業員の約束事が書かれた書類、と言いました。
つまり、就業規則に書かれた賃金の規定はその会社の最低基準となります。
もし固定的賃金の3分の2要件を満たすため介護職員の時給を1,000円から1,200円にUPしたとしたら、これから雇う全ての介護職員は時給1,200円になるということです。
もし今雇っている全ての労働者が時給1,200円の働きをしてくれているから時給を上げるということは、未来の観点が抜け落ちている点では危ないかもしれません。
なぜなら固定的賃金は簡単に下げられないからですね。
であれば、勤続手当・資格手当・役付手当・・・といった労働者の特性に応じて支給要件を明確化し、固定手当を増やすといった方向性のほうが良いかもしれません。
注意点③申請中の助成金と矛盾は生じていないか
3つ目は、申請中の助成金と矛盾は生じていないか、です。
助成金の支給要件には「労働者の賃金をアップする」というものが数多くあります。
例)キャリアアップ助成金の 「正社員化コース」
これは、3%以上の賃金UPが要件としてあります。もしこの3%UPのタイミングと特例交付金による昇給がピタッと重なれば良いんですが、タイミングがズレるのであればこの臨時特例交付金も含んで計算して、要件を満たせているかが条件となります。
また、助成金の申請には就業規則の提出が必要です。
賃金制度が変更された施行日に矛盾がないか?就業規則の届け出義務を果たしているか?が精査されます。
助成金に関しては矛盾がないようにちゃんと就業規則を整えておかないと次回の助成金申請の際に手続きが進まず、最悪の場合、支給されません。
なので、社労士に助成金申請をお願いしている事業者さんは、必ず就業規則の変更や賃金UP額につき問題がないか確認してもらって下さい。
以上です。