はじめに
就労継続支援A型・B型は、障害を持つ方の「働く」を支える重要な障害福祉サービスです。
A型は雇用型・B型は非雇用型といった表現を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
とはいえ、A型とB型の違いは見た目以上に大きく、特に開業を検討する事業者にとっては制度の理解不足が後のトラブルを招きかねません。
この記事では、制度設計の背景や利用者の法的立場の違い、リスクマネジメントの観点から、就労継続支援A型・B型の根本的な違いを解説します。
就労継続支援A型とB型の基本的な違い
A型は、原則として雇用契約を結び、利用者は労働者としての地位を持ちます。
一方B型は、雇用契約を結ばずに、利用者は障害福祉サービスの枠内での訓練・活動にあたります。
この「雇用契約の有無」が制度上の最大の違いです。
利用者の“法的な立場”の違い
A型では雇用契約を結ぶ、つまり利用者は明確に「労働者」という法的な地位を持ちます。
これは、労働契約法・労働基準法・労災保険法などの法律に守られる立場だということを意味します。
一方、B型の利用者は「B型サービスの利用者」であり、事業者との雇用関係はないため、原則法律上は「労働者」とはみなされません。
このことは、過去の判例でも明確にされています。
例えば、名古屋市の社会福祉法人が、就労継続支援B型事業所の利用者に支払う工賃が「これは働いてもらった分の支払い=仕入れと同じだから、消費税の計算で仕入控除の対象にすべきだ」として、過去に納めた消費税の一部返還を国に求めた訴訟がありました。(名古屋地裁令和4年(行ウ)67号 通知処分取消請求事件)
しかし裁判所は、「工賃は福祉サービスの一環として提供されるものであり、労働の対価ではない」として、法人側の訴えを退けました。
この判決では、B型における「工賃」があくまで訓練の成果への対価であり、法的には賃金とは違うことを裏付けています。
つまりB型の利用者の労働者性は否定されたとも言えます。
労務・リスク管理の違い
A型では労働者としての保護が求められるため、次のような労務管理が必要です。
もしA型事業所で業務中や通勤途中に利用者がケガをしてしまったり、業務を原因とする疾病を発症した場合等は、労災保険が適用されることになります。
一方、B型では労働契約がないため労災保険の対象にはなりません。
代わりに、多くの事業者は民間の「損害賠償責任保険」や「傷害保険」に加入して、作業中の事故などに備えています。
福祉サービスとしての共通点も忘れずに
A型であっても、利用者は障害福祉サービスの対象者であり、ただの「従業員」ではありません。
生産活動は単なる「労働」だけではなく、利用者の知識や能力を向上させるための「訓練」的性質も持っています。
ゆえに個別支援計画の作成、サービス管理責任者によるモニタリング、一般就労に向けた支援など、福祉的な支援が不可欠です。
つまり、A型のサービスには「福祉」と「労働」の2つの側面があるという特徴があります。
さいごに
「A型とB型、どちらで開業するのがいいか」というご相談は、これまで弊社へ多く寄せられた相談内容のひとつです。
一口に就労継続支援といっても、A型とB型は大きな違いがあります。
どちらを選ぶにしても、コンプライアンスやリスク管理は欠かせません。
A型・B型それぞれの特性を正しく理解し、自社の理念や地域のニーズに合った支援モデルを選択していただければと思います。