(西澤太一社長/左から3番目)
◆COMPANY DATA◆
大福株式会社
代表取締役 西澤 太一
住所:横浜市中区弁天通2-29 森藤ビル301
就労継続支援B型 ランドマークHP:https://daihuku-landmark.com/
明日も来たい!そう思える事業所を目指して ―就労継続支援B型事業所の挑戦―
― まずはじめに、事業所を開業したきっかけを教えていただけますか?
もともと僕は会社員をしていたのですが、激務から体調を崩してしまい、5年間勤めた会社を辞めました。
そこから、社会復帰を考えたときに「自分ひとりで出来ることをやってみよう」と思い、軽貨物ドライバーとして、個人事業主で独立したんです。
そしたらそれがすごく自分に合ってたみたいで、数百名いるドライバーの中で、入社わずか2ヶ月目で売上1位になれました。
そこで稼いだお金を元手に、障害者や高齢者のご自宅にお弁当を届けるお店を始めました。それが福祉の世界に入るきっかけでしたね。
そして、縁あって高齢者向けのデイサービスを開業することになりました。
ありがたいことにそのデイサービスで売上が伸びて、少し自信がついて。
「次は障害福祉もやってみよう」って思えたんです。
ちょうどそのタイミングで、今の就労継続支援B型事業所をM&Aで引き継ぐ話があって、2年ほど前にスタートしました。
障害福祉事業は初めての挑戦でしたが、不安は…正直、あまりなかったですね。
やってみるしかないと思っていました。
― そこから現在の事業所につながっていくわけですね。具体的には、どんなことをされているんでしょう?
就労継続支援B型での生産活動は、企業から請け負う軽作業などが一般的です。
ですがこの事業所は「エンタメに特化」しており、イラスト制作や動画編集、アニメーション制作、SNS運用などの生産活動があるのが特徴です。
― エンタメに特化した生産活動は初めて聞きました。なぜそうしようと思われたのですか?
実はこの事業所を引き継いだとき、もともと生産活動の中でイラスト制作はありました。
ただ、利用者さんが絵を描くのみ、という感じで。
もちろんそれでも楽しいとは思うんですけど、「ここに来たらもっと上手くなれる」とか、「自分の絵を誰かに見てもらえる」っていう体験があったほうが、もっと通いたくなるんじゃないかって考えたんです。
そこで、知り合いのつてをたどって、プロの漫画家の先生に協力をお願いしました。
月に1回、利用者さんが描いたイラスト等を課題として提出して、それに対して先生が「ここはこうするともっと良くなるよ」とか「この構図は面白いね」って添削してくれるんです。
これが、すごくモチベーションにつながっていて。プロの先生に作品を見てもらえるって、やっぱり特別な体験ですよね。
あと、利用者さん同士でのコラボレーションもありますね。
誰かが描いた白黒のイラストに、別の人が色を塗って完成させるとか。
そういうやりとりが生まれると、単なる「作業」じゃなくて、ちゃんと「作品」になるし、人とのつながりも感じられるんじゃないかなと思います。
(実際に利用者さんが描いた様々なイラスト)
― もっと来たいと思える事業所を目指した結果、エンタメ特化という大きなアピールポイントができていったんですね。
他にも面白い生産活動があるとか…!詳しくお聞かせいただけますでしょうか?
ある日、中国の会社から映画の吹き替えのオファーが来たことがありました。
もともと、とあるサイトで声を販売していた利用者さんがいて、その方の声がすごく特徴的だったので、それがきっかけでしたね。
他にも、大手ライバー事務所と連携してVライバーとしてデビューした利用者さんもいます。
Vライバーとは、バーチャルのキャラクターを使って顔出しせずにライブ配信をする人のことです。
障害のある方って、やっぱり顔を出すのに抵抗がある方も多い。
でも、何か表現する場を持ってもらえたらなと思い、Vライバーという形なら可能性があるんじゃないかと考えて、利用者さんをバックアップしました。
あとは最近だと、ゲーム制作をしている会社の社長さんにも協力してもらって、ゲーム好きな利用者さん向けに、ゲーム制作の勉強会なども開催しています。
正直、ゲーム制作なんてめちゃくちゃ難しいんですよ。でも、利用者さんたちは興味があるからこそ、自分なりに工夫して食らいついてくれています。
とにかく、利用者さんが「楽しい」とか「やってみたい」って思えるものを、これからもどんどん形にしていきたいですね。
― ここまで魅力的な取り組みを次々と実現されてきましたが、その裏ではやはりご苦労もあったのではないでしょうか?
もうね、苦労なんて毎日です(笑)
特にうちはM&Aで引き継いだ事業所だから、最初からスタッフさんがいたわけです。
自分が新しく来た経営者で、しかも障害福祉の現場経験がないとなると、最初はやっぱり気を遣いました。
いきなり色々言いすぎても、現場の士気が下がっちゃうし、かといって放っておいたらうまく回らない。
そこはすごく難しかったですね。どういう距離感で接するか、どう伝えるか、何を口に出すか、毎日考えてました。
M&Aでの開業って、新規とはまた違う難しさがあります。
新規だと自分がゼロから作る分、トップとしての立ち位置がはっきりしてるから、ある意味やりやすい部分もある。
でも、既存の組織に入ると、人間関係も含めて調整が必要で、そこが本当に大変でした。
ただ逆に言えば、こういう経験を若いうちに積めたのはよかったなとも思ってます。
今後、福祉に限らずいろんな業界で後継者不足って絶対出てくる。
そのときに、M&Aを通じて引き継いだ事業を円滑に運営し、価値を高めていくマネジメント力や実行力は、すごく大事なスキルになると思っています。
― 苦労の連続だったというお話もありましたが、一方で「ここは上手くいっている」と感じている部分もあると思います。
ありがたいことに、今は集客はかなり安定していると感じています。
中には、ネットで検索して自分で電話をかけてきてくれる利用者さんもいて、「ここに通いたいんですけど」って直接連絡が来るんですよ。それは本当にうれしいですね。
相談支援事業所の方からの紹介や口コミでの利用希望者も増えてきていて、見学にきてくださる方も週に2~3人います。
あとは、昔ながらのチラシ配りも地道にやっていたりします。
そこから問い合わせが来ることもあるので、アナログとデジタル、どっちもバランスよくやっていくのが大事だなと感じています。
― これから先、さらにどんな形で事業を広げていきたいと考えているんでしょうか?
B型の事業所としては、ようやく安定してきたなという実感があります。
でも、ここで満足するつもりはなくて、今は次のステップとして訪問看護の事業を立ち上げようと準備しています。
これまでは「通ってもらう支援」がメインでしたが、それだけだとどうしても支援が届かない部分もあります。
家から出られない人、生活が不安定な人、そういった方たちに対しては、こちらから訪問してサポートできる体制が必要だと思っています。
この事業所は「どこかに定期的に通うという行動のクセ」をつけてもらう、つまり社会とのつながりを持ち続けるためのベースになる重要な場所だと捉えています。
将来的には精神科クリニックの立ち上げも視野に入れていて、医療・福祉をグループ会社内で包括的に支援できる状態を作りたいです。
そうすれば、社会とつながりながら暮らしていける環境を、ちゃんと整えてあげられるんじゃないかと。
そうやって、長く安心して社会とつながり続けるための「ランドマーク」を目指したいです。
(西澤太一社長(後列左から2番目)と事業所の職員・利用者の皆様)
おわりに ―次の時代をつくる支援のかたち―
今回のインタビューでは、ユニークで魅力的な生産活動から、西澤社長ご自身の話、利用者さんや従業員の方に対する思いまで、幅広くお話を伺うことができました。
利用者さんの「好き」が事業所に通う原動力になる——そんなシンプルで力強い支援の在り方に、とても心を動かされました。
また、事業承継や将来的な医療連携など、単なる就労支援にとどまらない構想には、障害福祉業界のこれからの姿が垣間見えるようでした。
エンタメやITと障害福祉の融合は、まさに時代の流れ。
今後ますます、こうした事業所が求められていくのだと思います。